ガエル記

散策

ノンフィクション

『松本清張の女たち』酒井順子 その4

ネタバレします。 母と妻と松本清張 15 清張の母、清張が描く母 この項の書き出しは本著で最も不思議な感覚、奇妙というか違和感というか謎めいたものだった。 と言っても作者の酒井順子氏に対してそう思ったわけではなく酒井氏が疑問を持ったことに「それ…

『松本清張の女たち』酒井順子 その3

ネタバレします。 昭和の女と松本清張 9 殺す女、殺される女 ここで紹介されている作品で『声』だけは読んでいた。 これは衝撃的な話であり同時に興味深い作品だった。 新聞社の電話交換手を務めていたヒロインは数多くの声を聴き分けられるという能力を持…

『松本清張の女たち』酒井順子 その2

続けます。 ネタバレします。 5 転落するお嬢さんたち 紹介される小説の中で一作品だけ知っている。『霧の旗』である。 それにしてもこの本は凄まじい企画である。 ひとりの作家を分析していくという評論は数あろうがそれが松本清張のような膨大な作品のもの…

『松本清張の女たち』酒井順子  その1

2025年「新潮社」 松本清張小説をほんの少ししか読んでいないのにこの本を読んでいいのか迷ったがやはり気になり手に取ってしまいました。 松本清張の小説の魅力と人気は女性たちの存在にあり、と思っているからです。 一時期にはベストセラーとなった本の多…

『日本遠国紀行』道民の人 その4

ネタバレします。 第5章 隠れキリシタンを訪ねて ───島原・天草巡礼記(長崎・熊本) 北海道の山中で暮らす男性が見せた”川から出てきた円い銅塊”は隠れキリシタンの”メダイ”だった。 隠れキリシタンといえば長崎が有名だが各地に散らばりさらに滅ぼされ道民…

『日本遠国紀行』道民の人 その3

ネタバレします。 第3章 死者の婚姻 この章についてもう少し書く。 この世の災害で恐ろしいものは数あれ、自分はこの「飢饉」という文字が一番怖い。 私は少食の方だろうと思うが一食でも抜くことができない。たちまち具合が悪くなってしまうのだ。 それが何…

『日本遠国紀行』道民の人 その2

やましい気持ちを抱えながらも進んでみよう。 ネタバレします。 第2章 異形の神々が佇む村 ───秋田の人形道祖神 日本古来の宗教観として「境界」というものがある。 そうした道の境目に立ち外から入り込もうとする者を塞ぐ役割を持つ神として「サエノカミ」…

『日本遠国紀行』道民の人 その1

2025年「笠間書院」 SNSで遭遇し気になってしかたなかった。ついにページを開きます。 ネタバレします。 「序にかえて」 作者氏は1990年代から2000年代「過疎化」「ひとがいない、ここにはなにもない」という北海道の地域社会で子供時代を過ごしたという。 …

『「細雪」とその時代』川本三郎 その6

ネタバレします。 十七 迫り来る戦争の影 『細雪』は昭和十一年(1936年)の秋に始まり、昭和十六年の春に終わるが、読者にはこの時間が伝わってはこない。 川本氏はこのことを「谷崎は日常の細部を詳しく書くが時代と社会の出来事を書くのに熱心ではない」…

『「細雪」とその時代』川本三郎 その5

ネタバレします。 十四 阪神大水害 昭和十三年(1938年)阪神地方は未曾有の大水害に見舞われた。 『細雪』の中巻ではこの大水害が描かれている。 この年は五月から雨が多く六月の入梅以来間断なく降り続いたという。そして七月三日から五日にかけて集中的な…

『「細雪」とその時代』川本三郎 その4

ネタバレします。 十 外国人との交流と別れ 末妹・妙子と親しくなる白系ロシア人カタリナ・キリレンコ。 亡命のロシア一家に夕食に呼ばれてやや頓珍漢な体験をすることになる。 港町神戸に亡命ロシア人は多かったという。 カタリナは自分の美貌を武器にして…

『「細雪」とその時代』川本三郎 その3

ネタバレします。 七 モダンガールの四女、妙子 ここで筆者の川本三郎氏は蒔岡家の四姉妹で誰が好きかという問いかけをする。 年配の人は「雪子」次いで「幸子」なのに対し若い人は「妙子」をあげる人が多い、と書く。 私としては『細雪』感想のなかでたぶん…

『「細雪」とその時代』川本三郎 その2

ネタバレします。 四 阪神間の文化と神戸 谷崎潤一郎は原稿として四国から取り寄せた和紙に罫を馬楝で摺り込んだ自家製のものを使っていたという。 挿絵画家は芦屋の海辺に住む小出楢重。 阪神間文化のあらわれだと川本氏は記す。 小出楢重は昭和二年の随筆…

『「細雪」とその時代』川本三郎 その1

2020年「中央公論社」 昨日まで読んできた『人びとの社会戦争』の中に含まれる光景のはず。 ネタバレします。 一 女が育てた阪神間文化 「芦屋」とか「船場」とかのイメージがまったくない人間としてはそれらをいちいち想像するだけで楽しくなる。 小説を読…

『人びとの社会戦争』益田肇 その7

ネタバレします。 第Ⅳ部 なぜ日本は対米戦争を選んだのか 第Ⅴ部 引き続く社会戦争 と、端折ることとなった。 非常に貴重な一冊だと思う、が自分としてはそこまで書くことがない。 第二次世界大戦という地球規模の大戦を経てそれぞれの国が様々な体験を得たは…

『人びとの社会戦争』益田肇 その6

ネタバレします。 【第九章 戦争の魅力(二)人びとはなぜ戦争を欲したのか 1937ー38年】 この章を読んで思い出したのは「戦時中、女性たちが命懸けでパーマネントを求めた」という話である。 今となればなぜそこまでパーマネントに憧れたのかはわから…

『人びとの社会戦争』益田肇 その5

ネタバレします。 【第六章 全体主義の魅力(一)絆、団結、一体感の希求 1931-34年】 「日本はなぜ戦争への道を歩んだのか」 この問いにこれまでは「軍国主義」「関東軍の暴走」という「今現在にはない当時の軍部の異常性」を唱えてきたがここでは「…

『人びとの社会戦争』益田肇 その4

ネタバレします。 【第四章 幸せとはなにか 1927ー31年】 ここで記されるのは三つの潮流の話。 一つは頽廃的な享楽現象と見下されてしまうエログロナンセンス世相。 一つは土着的な生活や農村文化を強調し家族や共同体の再現を目指す「郷愁」志向。 一…

『人びとの社会戦争』益田肇 その3

ネタバレします。 【第二章 くすぶる苛立ち:草の根社会保守の台頭 1910ー20年代】 ここを読んでまたひっくり返った。 この読書で何回ひっくり返ったらすむんだろう。 で、何にひっくり返ったかというと 「日本男性は女性に恋してはいけなかった」 か…

『人びとの社会戦争』益田肇 その2

ネタバレします。 第Ⅰ部 解放の時代 【第一章 瓦解と解放 1910ー20年代】 1913年(大正2年)1月。 小学校代用教員・吉田得子(22歳)は岡山県の高等女学校を卒業した後地元小学校で働き始めすでに四年経った。 「職業婦人」「モダンガール」という言葉…

『人びとの社会戦争』益田肇 その1

2025年「岩波書店」 もうかなり日が経ってしまったがネットで偶然見かけた本著が気になり読んでみようと思います。 現在はまだやっと序章に入ったところです。 さてどうなりますか。 ネタバレします。 【序章 人びとは何を戦っていたのか】 1940年11月、中国…