ガエル記

散策

「胎児のはなし」増﨑英明・最相葉月-前半ー

f:id:gaerial:20190524051647j:plain

ミシマ社です。

全編、おもしろい興味深い話がいっぱいでした。

まずは表紙の軽やかな絵に安心して入っていけますね。この絵がマジだったりするとちょっと抵抗あるかもしれませんし、お二人の話自体が軽やかなのでこの絵がぴったりであると思います。

 

内容に触れていきます。

 

第一章では染色体について話されます。

人間には二十二対の常染色体と一対の性染色体があり、女性がXX、男性がXYです。これは知っていましたが,Xの中には物凄い数の染色体があって女性はそれを二つ持っているので一つ壊れてもは反対側が働けばいい。だけど男性はひとつしかないので早く死んでしまう、のだそうです。

じゃあ、Yってなんだというと女を男にする役目しかないというのです。Xは「生きますよ」「生きてますよ」という遺伝子があって女性は二つ持ってるのに男性はひとつのXがYに変わってしまったという、なんという不思議なことでしょうか。

男性はこういう話をやたらと「どちらが偉いか」みたいな話に持っていきがちですが、単に役割、ということではないのでしょうか。

 

そして続く話が「胎児についての研究」が怖ろしい犠牲の上に成り立っているという事でした。今ではとても認められない人権無視の行為がかつて行われたことで今の知識が存在するのです。

 

第二章は魚群探知機が妊婦の超音波診断に発展する、という言うお話から先生の生い立ち話、そして逆子体操の話になるのですが、実はこれ、私自身経験しております。

最初の子の妊娠中「逆子になっているので体操してください」と言われ、大きなおなかで苦しい体位をする体操をしなきゃいけないのですが、おかげさまで案外すんなり逆子治りましてほっとしましたが、増﨑医師は「赤ちゃんがいたい格好でいいんじゃない」というようになったそうですw増﨑さんの発言は万事こういう自然体なのがとても好感持てます。他には手でひっくり返すという技もあるとか。「外回転術」という保険診療だそうです。

  

第三章は胎児はまだまだ未知なるもの、という話でした。

十月十日ということばはまだ存在しているのでしょうか。実際の妊娠期間は40週間で一般では最終月経から割り出しているようですが(すみません。これに関しては私はまったく考えたことがないのですよ)増﨑医師はこの方法は違いがありすぎるとして超音波での計測で完璧と言います。赤ちゃんが30ミリで必ず10週目という事から計算していくと、この時期までは個体差がないのですね。

そして、女性の体の中になかった「羊水」というものがどうして妊娠した時に発生するのか。これも何も考えずにいたことですが、「どうして?なぜ?」を考えることが科学ですね。

羊水の初期はお母さんの血清といっしょで生まれる前の成分はおしっこといっしょになっている。つまり赤ちゃんはお母さんの血の中で育って自分の出すおしっこで満たされていくということになります。このおしっこ羊水は再び赤ちゃんが飲むので増えすぎることはないということです。

だけどうんちは生まれるまでずっとためていて生まれてから排出する。なのでうんちで羊水がよごれることはなく、もし汚れたらそれは赤ちゃんが具合が悪いということになるのです。

 

 第四章 胎児を救う!「人」として扱う医療を

難しい話になってきました。

中絶、という問題について語られていきます。

特にこの章において増﨑医師の考えが述べられています。

例えば病気を持って生まれてくる子供をどう考えるか、日本と欧州での考え方の相違。宗教による考え方の相違。

中絶の話し合いで夫のほうが強く主張するとき、増﨑医師はお母さんの意見を聞いているのです、と言うのだそうです。

中絶の手術をするのは辛い仕事なのです、と語られています。そのこと自体にも様々な考え方があるのでしょう。

この本ではレイプでの妊娠を掘り下げて語ることはされていません。それは別の場所で話し合われるべきで当然ですね。

避妊をしなかったための妊娠での中絶。優生保護法による中絶。なんという悲しいことか。

しかし医師としては仕事として割り切るしかないという事実。

産婦人科医の喜びと苦しみが語られます。

 

第五章

前の章が特に苦しい話だったためか、この章は柔らかい話になっています。

特に子宮の羊水の中にいる胎児、を「エヴァンゲリオン」のLCLに満たされる場面と重ねて話されたのが興味深かったです。

羊水の中の赤ちゃんはお母さんから酸素をもらっているので口や鼻で呼吸をしているわけじゃないのにあくびをする、というのもおもしろいです。

そしてしゃっくりも凄く多いという。

ここで増﨑医師はしゃっくりの止め方を最相さんに教えるのですが、私も知っているやりかたでした。ですが、最相さんは知らなかったのでちょっと驚きでした。

私も増﨑医師と同じ佐賀県生まれなのですが「水を入れたどんぶりの前後左右四か所から水を飲むとしゃっくりが止まる」というのは佐賀特有なのでしょうか。

あれはほんとうに止まります。最近しゃっくりでないのでここんとこ試してませんが。

とにかく胎児は呼吸をしなくていいのに呼吸をするような運動をいっぱい練習しているのだそうです。

こうして胎児はお母さんのおなかの中で生まれてくる準備をがんばっているのですね。