ガエル記

散策

アーキタイプとステージで『この世界の片隅に』を読む 3

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『新しい主人公の作り方ーアーキタイプとシンボルで生み出す脚本術」キム・ハドソン
のテキストを参考にしながら『この世界の片隅に』のすずを読み解いています。

昨日の続き参ります。

 

ステージ【8】枷を手放す

ヴァージンは未来へ飛び立つため、過去から抱えてきたものを捨てなくてはなりません。心の成長の大きなターニングポイントです。

 

枷を手放す。

怖ろしいことですがこれはすずが「大切な右手を失う」ことなのでしょう。

すずは絵を描くことが得意です。そして北條家でしなければならないことは家事です。

それには利き手である右手が必要です。

右手を失えば「家事をする嫁」の責任が果たせないすずは「不必要な存在」だとすずは打ちのめされます。

家事のために存在することがすずの存在意義だと彼女は思っていて、そのことですずは家庭に依存できるからです。

 

その右手がすずの枷だったのです。

 

ステージ【9】王国の混乱

すずは周作と関係があった白木リンの名前を言って消息を確かめて欲しい、と頼みます。右手を失ったすずは自分ではない別の女性を周作にあてがおうとしています。

「右手があるその女性の方が伴侶にいいのではないか」と。

怪我をして寝込んでいるすずに妹が見舞いに来たので、家事が不得意な義姉がお茶を運んできます。

妹とすずはその様子に居心地を悪くしているようです。

そして妹は「家事ができなくて居りづらかったら実家に帰っておいでよ」と優しくいうのです。

横暴だった兄が戦地で死んだことさえ今のすずは家に帰れる理由だと嬉しく思ってしまうのです。

 

ステージ【10】荒野をさまよう

ヴァージンは依存の世界に住みながら、秘密の世界で夢を追いかけました。それは「だめだったらいつでも後戻りできる」という環境です。では依存の世界をきっぱりと断ち切って夢が追えるかと言うとまったく別の話です。

ヴァージンは自分が本当に独り立ちできるか迷います。上手くいく保証などどこにもありません。まさにここが分かれ道。依存の世界に引き返すか、前に歩いて新しい居場所を作るかです。

うっわー、まさにこの説明など『この世界の片隅に』の終幕を語っているかのようです。

 

すずのいる世界は女性にとって「右手がない」=「家事ができない」=「嫁としての居場所がない」 という図式が成り立つ世界です。

右手を失ったすずは夫に以前愛した女性を思い出させることまでします。

そして突然舞い降りてきた白い鳥を追い立てて「その山を越えたら広島じゃ」と叫びます。すずの心を表しています。

途端に敵機からの銃撃を受けたすずは周作に救われながら「広島に帰ります」と告げます。

ここで周作がはっきりとすずに「あんたといれて楽しかったで」と言いますが、すずの気持ちは周作の言葉では動きません。「白木リンの消息を知りたがっていたけど教えたらん」という周作の言葉にも嫉妬を感じて苦しみます。

 

荒野をさまようステージは、ヴァージンの信念の強さが試される時です。どれだけ成長できたか、依存の世界と決別できるかを試すチャンスが訪れます。

ヴァージンの思考の第二段階です。ここではすべてが居心地悪くなります。慣れ親しんだ環境から心を切り離し孤独を体験しなくてはなりません。どんなに大変でも変わっていこうとする姿にヴァージンの強さが表れます。決意が一時的なものではなく、時が経っても揺るがないことを示します。

 

まさにすずの成長を表現しているかのようです。

この「決意」というのはすずが「実家に帰る」ということではなく「自分の意志で決める」ということになります。

物語の最初で言われるがままに行動していた(結婚した)頃のすずとは違い自分でなにをするかを決めていくのです。

 

 今日はここまでです。

とても重要なドキドキする場面の途中です。

一度、迷ったのですがよく考えるとぴたりと合ってきました。

 

続きます。