ガエル記

散策

『拉致と日本人』蓮池透・辛淑玉

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こういう本ってどうしてこんな怖い表紙なのでしょうか。軽くてふざけたデザインだと気分が出ない、のかもしれませんがこういうものほどあえてかっこいいマンガや可愛いイラストを用いてもいいのではないかと思ってしまいます。

せめて色合いとロゴがもう少し受け入れやすい優しさであってもいいのでは。

 

というのは無論この本は多くの日本人が読むべき本だと思うからなのですが。

さすがに赤黒い背景に研ぎ澄まされたような斜体で拉致と書かれていたら手に取るのすら怖ろしいではありませんか。

勿論拉致は怖ろしいしその世界をのぞき込むのはマジで恐怖です。

そしてその上に愛想のない字体で黄色くタイトル文字です。読みたくなる気持ちを萎えさせます。それともこういう本を読む人はこういう感覚、ということなのでしょうか。

しかしもともと読む人よりも読んでみようかな、という気持ちを起こさせることが必要に思えます。

 

くだらない前置きを書き過ぎました。優秀な日本人ならこの強面に臆せず手に取って読んで欲しいものです。

 

私は少なくとも2002年小泉元首相の北朝鮮訪問そして拉致被害者5人が一時帰国後そのまま北朝鮮には戻らなかったということからはテレビなどの報道で少し知っている、というほどの認識です。

拉致被害者の一人・蓮池薫さんの兄・蓮池透さんの姿は当時テレビでよく見かけました。

彼が山本太郎氏と組んでれいわ新選組に属したという話を聞いた時はかなり驚きましたが、それは蓮池氏がもともと東電に勤めていて原発の知識を持っているからと知った時もまた驚きでした。

そういう自分がこの本を読んでまたもや色々なことで驚き続けました。

一応聞いてはいましたが、安倍首相が名声を高めるために北朝鮮拉致被害者救助を利用したことが蓮池氏の証言で赤裸々に語られていきます。

5人の一時帰国の際にも安倍首相は「戻れ」と言っていて蓮池薫さんを引き留めたのは兄・透さんだったのに後に安倍首相が5人を戻さなかったのは自分だと手柄にした話にはあきれます。その時だけ安倍氏は山のようにマスコミを引き連れて蓮池家を訪れ当時蓮池薫さんの子供たちはまだ北朝鮮に残されていたので「子供たちをお願いします」と頼んだら安倍さんは「もしものときには我々には我々のやり方があります」と豪語したそうです。

この文章だと何とも言えない気もしますが、そこにいた蓮池氏には冷酷に聞こえた印象だったのでしょう。

 

「今、北朝鮮側のこういう人と、あなたがたの子がたどもを親もとに渡すよう交渉しています」と言うのだったらわかりますが、凄んだだけでさっさと帰ってしまった。そんなことばっかりですよ

 

しかもその時、安倍さんは(地元名物の)お饅頭を三つも食べていった

ということで苦笑するしかありません。

なんというのか・・・心がないのかもしれませんね・・・あのかたは。

 

そして読んでいると怖ろしいとばかり思っていた「北朝鮮」という国とそこに住む人々もある一部の人を除けばごく普通にあたりまえの人たちなのだろうと思えてきました。

今、少しずつそういう情報も聞こえています。

日本でも怖ろしいのは一部の人々で多くはまっとうな優しい人たちなのではありませんか。それはきっと世界中のどの国でも同じなのでしょう。

でも恐怖や憎悪を生み出すためにその「一部の人たち」は国民に嘘を教え広めていくのです。「あの国はおかしい」と。

 

私たちに必要なのは学ぶ意欲と寛容さです。

正しい知識、というのはなんなのかを見極めることが難しい。でも学ぼうという意識と多様性を許容する精神があれば前に進めます。

 

怖い表紙の中身は素晴らしい会話でした。

ちょっと手ごわく見えますが、これは是非読んで欲しい一冊です。