以下ネタバレになります。
ドラマラストではっとしたのは女性科学者ウラナ・ホミュックは当時世界的に有名となったレガソフを応援していた多くのソビエトの科学者の思いを一人にまとめた造形だたという説明でした。
面子を重んじるソビエト連邦が原発のミスを認めるわけがないとしても我たち科学者は真実を伝えるべきだ、命に代えても、という正義を具現化したかのようなウラナに「こんな凄い女性がいたのか」と驚きながら観ていたのですが、彼女がそういう思いを抱えた科学者たちをひとりに具現化したものだと知って納得できたのです。
しかしその思いを一人で背負って立つことになったレガノフは思った通りソビエト政府から黙殺されてしまいます。必死の覚悟で語った言葉は無かったことにされるのです。
費用を惜しみ安価な材料で制御棒を作ったことから起きる化学反応が原子炉を危険な状態へと導く。
他の助言を聞こうとしない上司から引き出されていく間違った行動、そして状況はどうしようもなく悪化し爆発を起こした。
ミスを隠すための嘘がすべての原因だとレガノフは訴え、直ちにすべての原発の改善処置を促しても政府はそれに応じようとはしない。
結局レガノフは自殺という形で政府を追い詰めることで、国中の原子力発電所の改善を叶えることができたというのが後日談となって表される。
チェルノブイリ原発事故の後処理として60万人もの人々が徴用され多くの人々が被曝し病気となり死亡したとされるのですが、その数は把握されてはいないのです。
事故当時、消防員として働いた男性は被曝の影響で体中が溶けたようになり死んでいき、その死体の入った棺はコンクリートで固められてしまいます。
彼の妻は死に逝く夫のそばにいたことで被爆し、身ごもった子供は母親の放射能を体にため込み死産されてしまうのです。
チェルノブイリの町にいた犬たちを銃殺していかねばならない男たちの苦悩とどうしようもない虚無感。
事故処理をあまりの暑さのために素裸で行う男たち。
全てが恐怖と悲しみ、などという簡単な言葉で表せるはずがないのです。
地獄。
その言葉しかないのではないでしょうか。しかしかつてこのような地獄を想像できた者がいたのでしょうか。
人間には原子力を手なずける能力はないのです。
しかしそれを生み出してしまった。
それならばもうそれ自体を封じ込めるしかないのだと思います。
それでも一度生み出してしまった恐怖はもう消えてしまうことはない。
いつか誰かがその眠りを覚ましてしまうかもしれないから。
しかしまだその不安を覚えるのは早い。
その怪物を眠らせることさえまだできないでいるのですから。
封印。
誰かがやってくれるわけもなく、自分たちで行うしかないのです。