ポスターでもわかるように当時ばりばりの二枚目俳優だったリチャード・ギアと同じく美しいダイアン・レインによる暗黒街の恋物語、という映画ですが映しておきたかったのは黒人ダンサーたちのタップダンスだったに違いない、と私は思っています。
というのは自分の中でグレゴリー・ハインズのタップしか残っていなくて『コットンクラブ』というのは黒人ダンサーがタップで白人を叩きのめしてやった、という記憶になっていたものですから、今日映画を見返してリチャード・ギアとダイアン・レインが出ていたのにびっくりしてしまったというわけです。
「あれえ。この二人出てたっけ」
いやいやいや、いくらなんでも主役の二人ですから映画の配分としてはギア&レインの場面が圧倒的に多いのですが、私の記憶回路からふたりはすっかり削除されていたようです。
とにかく記憶はハインズ兄弟の切れまくったタップそして他の黒人たちのタップバトルシーン、そして黒人女性歌手たちの歌声を強烈に保存してしまっていたのでした。
この映画での白人たちは暗黒街のギャングでもカッコイイギアも若い娼婦のダイアンも黒人たちの歌とダンスを見ごたえよく見せるための装置でしかないのです。
無論、この映画がつくられた時(まあ今でも)白人カップルが主人公でなくては作れなかったでしょうし、白人の暗黒街の暴力と愛の物語、というお題目を掲げることで映画になったのでしょう。
なのでストーリーはありきたりでつまらない、と思ってしまうのは「それはどうでもいいこと」だからなのです。
ギア&レインの白人カップルのストーリーはあくまでもコットンクラブの窓に貼った飾りなのであり観るべきはクラブの中で繰り広げられる黒人たちの熱い歌声とダンスなのです。
そしてこのグレゴリー・ハインズ兄弟のモデルはニコラス・ブラザースという実在のダンサー兄弟です。
『オーケストラの妻たち』という古い映画があります。グレン・ミラーオーケストラの音楽が楽しめるのですが中身は同じく凡庸なものだったと思います。
が、一番最後に物語と全く関係なく黒人ダンサーの踊りが出てくるのですがこれがニコラスブラザースだったのでした。
たぶんこの映画を観た人はすべてを忘れてこのニコラス兄弟のダンス場面だけを記憶してしまうでしょう。
昔書いた自分の記事もリンクしておきます。
ニコラスブラザースが印象強すぎてここでは私グレゴリーの悪口を書いていますわ。
コットンクラブは保管しておくべき映画です。
それはハインズ兄弟のダンスを保管しておくべきだからです。
そしてニコラスブラザーズを必ず観るべし!
彼らを観なければ『コットンクラブ』を観たことにはならないのです。