昨年末、芥川龍之介を松田龍平が演じるというので期待していたのですがこの前に放送された同じく松田龍平主演のNHKドラマがあまりに酷かったのでなんとなく影響して観るのが今になってしまいました。
が、こちらは期待以上に、というか予想したのと違った方向で素晴らしかったのでした。返す返すも前のドラマを恨みます。
そしてこれは、芥川龍之介が書いた「上海游記」のみをドラマ化したわけではなくその手記をもとに当時の上海の情勢を芥川が経験するという形で描いたものだったのですね。
この時代の上海などに日本人が勝手に妄想するロマンチシズムに偏りすぎているのかもしれませんが私も同じくこの夢想の世界に惹かれてしまうのでした。
できるものなら映画でもっと長い芥川龍之介in上海を眺めていたいものです。
ネタバレになります。
それにしてもこの時期の上海を描写するドラマを制作し放送するのは困難なことではなかったのでしょうか。
作品中でも当時の中国での日本人に対する嫌悪感が描かれています。「桃太郎」のエピソードはそれを端的に表しています。
芥川もまたかつて「三国志」や「水滸伝」を読んで感銘を受けた国の混乱と人々の粗雑さに戸惑う。
私は芥川の著書をほとんど読んでいないのですが(読んだのは例によって「蜘蛛の糸」をはじめとするいかにもの諸作品のみ)この脚本は幾つかの芥川作品から練りあわされたもののようです。
ルールーと呼ばれている美しい若い男娼に心惹かれ世話を焼く芥川は突然の彼の死に打ちのめされます。その死の原因の一部は芥川自身の言葉のせいだったかもしれないと思ったからではないでしょうか。
彼が惨殺された時に居合わせた一人の気丈な娼妓が持っていたビスケットにその血を吸わせて皆に分け与えます。そのビスケットを芥川自身も口にするのでした。
芥川は後に自殺しますが、その時に来ていたものはお気に入りの中国の布で仕立てた浴衣だったというのがドラマの最後のナレーションでした。
今まで芥川龍之介の自殺についてなにも考えたことはなかったのですが、このドラマを観てもっと作品を読みたくなりました。