ガエル記

散策

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 スティーヴン・スピルバーグ

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報道は政府のためにではなく国民の知るためにある。

そして裁判は報道の自由の勝利を明快に下す。

地方紙ながら記事の高い水準を自負するワシントンポスト。夫の自殺によって発行人の席に座ることとなった妻のキャサリン。当時、女性がそうした地位に就くことは皆無だった。トップが女性では信用が取れないなどという中傷を受けてしまうキャサリン。しかも事実彼女はブレーンの助言があってもなかなか思ったことを口にできない気の弱さがあり男性部下たちの一歩後ろについて歩く有り様でした。

 

キャサリンがよくあるアメリカ女性のバリバリに気が強い性格なのではなくむしろおっとりしたお嬢様気質でちょっと抜けている感じがなんとも好感が持ててしまいます。

内容のうんぬんを解釈説明できるような頭脳ではないので省略してしまいますが、報道の自由を勝ち取り新聞社の魂の在り方は政府に媚びることではなく国民の知る権利に寄り添うものだという展開はやはり感動的ですしそれを女性の生き方とも重ねていく技法はなんとも巧いものであることかと感じました。

 

そうしたストーリーだけではなくスピルバーグの映画というのは演出がとても魅力的なのですね。

キャサリンが部下であるベン・ブラッドリーから朝食に呼ばれ狭いテーブルにたくさんの書類をかき分けるようにしてコーヒーを飲む場面などは見ていて楽しいものです。

大きなカバンを抱えて現れるキャサリンが手前の椅子を倒して謝りながら自らそれを起こし、席に着くとウェイターがコーヒーを注いで彼女がミルクを入れて飲むという一連の動きにこういう表現が映画の楽しさだと深く感じ入ってしまいます。

 

そういった演出は数えきれないほどあるのですが、ベンの家で手に入れた機密文書を短時間で読み込んでバラバラになったページをそろえ記事にしなければならないという緊張の場面でも幼い娘さんが手作りレモネードを販売して一儲けしてしまったりベンの奥さんが急いでサンドイッチを作って皆に配るというようなことがたまらなく楽しいわけです。

会社内で話すのはまずいので公衆電話を使う際に小銭をばらまいてしまうとか機密文書を運ばせる時「歩くなよ」と言って走らせるとか、裁判所でキャサリンに声をかけた若い女性が実は敵側なのに応援していると訴えるとかそうした小さなエピソードは映画作品を深いものにしていきます。

 

さてラストは奇妙に意味ありげでしたね。

これは1976年公開の『大統領の陰謀』につながるとかで、直後に観ればより面白そうであります。ちょうど持っていますので次回の鑑賞はそれにしましょう。楽しみです。