エミリ・ブロンテ『嵐が丘』が吉田喜重監督の手により鎌倉時代の日本の物語として作り上げられたものです。
単に舞台を日本に置き換えただけではなく鎌倉時代に移していることで一層映像美が深まっています。
『嵐が丘』に心酔しまくった私ですが、松田優作演じる名前の通り怖ろしい形相の鬼丸の美しい絹への切ない愛に打たれます。
ネタバレしますのでご注意を。
先日『北斎漫画』で男の子のような田中裕子の可愛さに見惚れていましたが、本作で絹となった田中裕子を見てこの人はほんとうに綺麗なのだな、と驚いてしまいました。
化け物のような異形の男・鬼丸がこの女性にだけは、という愛情を注がれるだけの魅力を感じさせます。
小説『嵐が丘』は女性であるエミリ・ブロンテの筆によるものなので、やはり女性の心情が細やかに感じられますが、本作は男性監督のためかより一層ヒースクリフである鬼丸の愛しても愛してもどうすることもできない悲しいひたむきさに重きが置かれています。
小説では絶食による自殺で壮絶な最期を遂げたヒースクリフは(体が強すぎて絶食でなければ死なないのでした)魂となって愛しいキャサリンと永久にヒースの荒野を彷徨う、というゴシックホラーの美しさを描き出していました。
吉田喜重映画では体が蛆虫にたかられまだ美しい死顔の絹の柩を片腕を切り落とされた鬼丸が大きな体で引きずりながら荒山を彷徨う、という現実の描写になっていました。
松田優作はアクションスターとしてカリスマ的人気でしたが私はそれほど好きではなかったのです。が、森田芳光『それから』を観てとても良いと思いましたし、本作でも彼だからこその魅力を感じます。
アクションスターとして名を馳せた彼ですが、非常に役作りに勤勉であったというエピソードと重ね合わせて実際はこうした文芸派の俳優であり本人も目指していたのではないでしょうか。
その念願は彼の子供たちによって叶えられていると思いますが、もう少し松田優作自身の文芸作品を観てみたかったと悔やまれます。
本作が鎌倉時代というのも私は特に萌えポイントなのですが、日本時代劇でこの時代ほど魅力的な時代はないと思うのに何故あまりないのでしょうか。
男女とも服装や話し言葉、建物と内装など惹きつけられるポイントがありすぎます。
とはいえ、私自身あまり知らない世界でもありもう少し勉強してみなければいけませんね。(昨日昭和になど戻りたくない、と書きましたが鎌倉時代には惹かれます)
ほとんどレビューなどないようなのですが、日本ではこうした一途な男の愛、というテーマは受けないのでしょうかねえ。
武満徹の音楽もすばらしいです。