ガエル記

散策

『第三夫人と髪飾り』アッシュ・メイフェア

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昨日観た『チューリップ・フィーバー』と題材は同じものです。どちらもかつて女性にとって結婚は子供(特に後継者となる男子)を生む道具としての役割を果たすことにあったことを美しい映像で語る作品なのです。

しかしその題材をほぼコメディに近い演出でトリッキーに構築していったのが却って煩い仕上がりとなってしまった『チューリップ』とは比較するのは見当違いに思えるほど本作はすばらしい映画作品でした。

 

本作を観てその印象を様々な別作品と重ねる方が多いようですが私はやはり大好な中国の映画監督チャン・イーモウの初期作品『紅夢』と重ね合わせてしまいます。

(『紅夢』という邦題はいつもと違って簡単すぎで原題の『大紅燈籠高高掛 』と書きたいものです)

『紅夢』は現在日本では中古のVHSでしか手に入らないようで残念です。私は中国版DVDを輸入で購入したので中文でしか読めないのですが内容はなぜか頭に入っているので不思議です)(以前観たのか、中文で理解したのか?)

『紅夢』も同じようにかつての中国で第四夫人として嫁入りしたヒロインが他の三人の夫人たちと主人のお手付きの召使の間で葛藤翻弄されていくという物語でした。

本作のヒロインと違いかなり強気なヒロインでした(笑)それを演じたのは有名女優コン・リーです。

これは本作と充分比べて考えられる美しい映像と内容の映画作品です。DVDかブルーレイかで観られるようになると良いのですが。

 

監督のアッシュ・メイフェア氏は『紅夢』は鑑賞されているのではないでしょうか。

『紅夢』では中国の厳寒の風景が印象に残っていますが本作では北ベトナムの温暖というよりやや暑さと湿気を感じさせています。

『紅夢』ではヒロインが床入りをする前に足の裏を鈴の音のする小さなばちで叩いてもらう、という気持ちよさそうな謎の儀式があるのですが、本作ではヒロインが大きくなったおなかをオイル(?)つきでマッサージしてもらう、というリラクゼーション場面があります。

『紅夢』は男性であるチャン・イーモウの演出ですが女性の生活の喜びというのが食事やマッサージ、ゆったりとした時間であり、当然ながら縁組されただけの夫とのセックスは苦痛でしかない、というのは共通点からメイフェア監督は『紅夢』から幾つものサジェスチョンを受けたのではないかと思ったりします。

つまり中国での『紅夢』をベトナムで再現したらどうなるかというような。

 

もちろんこれは私の勝手な想像なのですけど。

 

『紅夢』では主人である男の顔がまったく映されない、という演出であったと記憶します。

本作では主人は映し出されますが女性たちの極めて美しい容姿と違いかなり「美しくない」男性を選択しているのではないでしょうか。

ひとり息子の身勝手な言動もあり、その息子の嫁の父親の冷酷な言動からしても本作に登場する男性は皆嫌な感じの人物ばかりなので当国の男性陣からは快く思われないのでは、と余計な心配もしてしまいます。いや、そういう話なので仕方ないのですけどね。

(『紅夢』では一人息子は顔はあまり見えないけど良い人そうだったのでそこはチャン・イーモウが男性だからでしょうか)

 

高温多湿な情景の北ベトナム、裕福な屋敷の美しい夫人たちと娘たちの生活は煌びやかではありませんが落ち着いてゆったりと平安に見えます。

でもそこにある一夫多妻という制度、子供を産むための役割として嫁いできた女性たちの葛藤と運命に安らぎはありません。

メイは最後怖ろしい運命を選んだのでしょうか。

 

長い髪を切り落としてしまう、のはやはり「女性」との決別の証しに思えます。

 

下は『紅夢』の画像です。

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