2014年発行著書なのですでに6年が経っています。その間になにか違った発見があったかどうかは私は知らないのですがとても興味深く面白い本でした。
Y染色体とは男を男たらしめる染色体なのですが、昨今このY染色体が退化し続けていてついにはこの世界から消滅してしまうーつまりはこの世界から男性はいなくなってしまう、という話はどこからか聞いたものではありました。
著者である黒岩麻里准教授(この本での記載では)によるとー以下ネタバレになってしまうのでご注意をー
Y染色体が消えゆく運命は確かだがだからと言って「男性」が消滅してしまうわけではなく様々な選択肢がある、というものでした。
例えば(まあ私の頭で理解した簡単な事柄にすぎませんが)チンパンジーは人間よりもY染色体が弱いのですが雌が繁殖期に多数の雄と交わることで存続しているそうです。
また哺乳類のほぼすべてはY染色体があるのですがすでにY染色体を消失しているものが3種類いてそのうち2種類は日本に棲息するトゲネズミというものらしいのです。しかしそれらの染色体を調べていくとY染色体とX染色体は常に一定なのではなく変化していくのが判ったのですね。
つまり不安定な状態となったY染色体が他の染色体と融合することで安定していくというのです。
そして他の哺乳類も長い歴史の中でこのようなY染色体の危機と変化があったのかもしれないわけです。
黒岩氏はこのように綴っていき「本当に心配なのはY染色体の消滅よりも他の事由を危惧すべきなのです」と結んでいます。
トゲネズミはそのようにしてY染色体の危機をクリアしたにもかかわらず「人間」が移入した別の動物によって絶滅の危機に瀕しているからなのですね。
この言葉は重く受け止めなければなりません。
現在日本では少子化の危機が叫ばれていますがそれにかかわる数々の問題はほとんど解決されていくように思えません。
むしろ現実に生まれてきた子供たちにとってよりよい社会を作っていかねばならないのではないでしょうか。
この本で他にも非常に面白く読んだのは第一章の中のひとつ「日本人のY染色体は落ちこぼれ?」という文です。
この文章は故・中堀豊博士の著書『Y染色体からみた日本人』からの記述になります。
日本人女性のDNAは大陸にも残っているそうですが日本男性のY染色体は大陸では駆逐されてしまい消滅したのだというのです。
逆に言えば日本人男性のY染色体は日本に来たからこそ生きながら得たわけです。
最近ネトウヨ諸君が「日本人は特別な存在」と声高に呼ばわっておられますが事「日本人男性」に関してはその表現は決して間違ってはいなかった、ということになります。
ただしその日本人男性Y染色体が大陸では駆逐され絶滅し、日本列島へと逃げのびたものだけが生き残った、という意味での「特別な存在」なわけですが、いや理由はどうであれ「特別な存在」であるには違いないわけです。
日本人男性がどこかしらアジア圏において異なる性質を感じていたのですがそれも確かな理由があったのかと驚きました。
しかし黒岩助教授は(女性です)そうした落ちこぼれY染色体に好感を持ちます、と書かれています。優しい人であります。私はそうそう好感だけを持てはしないようです。