ガエル記

散策

『贖罪』黒沢清 その1

f:id:gaerial:20201012064521j:plain

ネットフリックスにて鑑賞。原作は未読です。

 

全部観終えてからだと忘れそうなので途中で書き留めておきます。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

「いかにも現代日本らしい幕の内」弁当的物語となっています。

冒頭小学校で遊んでいた数人の女児たちに声をかける怪しげな男。一番可愛らしいと思える女児ひとりに「仕事を手伝って欲しい」と頼む。他の女児が「一緒に手伝う」というのを断って男はひとりの女児だけを連れて校舎に入っていく。

しばらくしても戻ってこないのを心配した女児たちが声を掛けにいくと体育館に死体となった女児が横たわっていた。

亡くなった女児の母親は「私は絶対にあなたたちを許さない。あなたたちは犯人を見つけ罪を贖うのよ」と生き残った女児たちに告げる。

物語は一話ごとに一人ずつその後の成長した彼女たちを追っていく。

 

とりあえず3話まで観たのですが人間のというべきか日本人のいかにもいそうな人々のいかにも言いそうなセリフが続きます。

自分も含めてでありますが人間(日本人)というのは皆ヘンテコな人しかいないのではないかと思えてきます。

脇役だけではなく主人公も誰もかも考え方が奇妙なのです。

皆が奇妙ならそれは奇妙ではないのでしょうか。

いったい何が正しいことでどんな行動が正しいものなのか。よく判らなくなってしまいそうです。

第一話、菊池紗英 は15年前の事件の恐怖から逃れることができません。彼女はすべての男性に対し嫌悪感を抱き恋人作りや結婚に否定的に生きてきただけでなくまだ月経がはじまっていないのでした。

そんな彼女は押し付けられたお見合いから一人の裕福な男性と結婚してしまいます。

その男は人も羨む地位と財産を持つ良い人に見えるのですが実は人形しか愛せないという人格を持っていました。そんな彼には月経がない紗英は理想の女性だったのです。

演じるのが蒼井優森山未來ということもあってなかなか見ごたえありました。人間というのは嫌がっているとなぜかそういう「変な人」に魅入られてしまうように思えます。引き寄せてしまうのです。

男がおかしいのは一目瞭然なのですが菊池紗英のほうもおかしいのです。

しかし幼いころに友人が性的な殺人をされてしまう。そしてその子の母親に「絶対に許さない」という枷をはめられて「おかしくない人生」を歩めるひとがいたらそちらのほうがおかしいのかもしれません。

 

第二話、篠原真紀。小池栄子演じる小学校の教諭となった彼女もまた15年前の事件を背負っていますが一話目の紗英が逃げていたのに対しこちらは真っ向からその敵と戦おうとしてきました。剣道部に所属し、水泳の時間に侵入してきた加害者を棒で打ちのめします。一旦英雄と称えられた後、剣道練習中に幻覚を見て相手を過剰に叩き続けたために今度は逆に激しく断罪されます。

学校を題材にした物語は必ずこうした暴力と謝罪する教師たちという話になります。学校と言う場所から離れて10年ちかくなりますが現実本当にここまで歪んだものなのでしょうか。いろいろな意味で「学校」というものはもうなくなってしまったほうがいい、と考えているのですが(もともとそう思っていたところに安冨歩教授の考えまで聞いてしまって完全に学校廃止を望んでいます)このドラマが真実の姿ならいったい学校を存続する意義があるのでしょうか。

これも主人公の篠原真紀自身もおかしな教師、として描かれています。彼女自身がそのことを自覚していないのが恐ろしいのです。

 

第三話、高野晶子。安藤サクラの怪演がみどころです。

さて加瀬亮演じる兄はほんとうに養女に手を出そうとしていたのか、ということになるのでしょうが、もちろん晶子自身が体験していたからこそそう思ったわけです。

この話の中で「身の丈に合った」という言葉が出てくるのですが、その言葉にぞっとしました。

よくぞこの言葉を選びましたね、と思います。

ついこの前まで存在した安倍政権で萩生田大臣が使った言葉ですが私はこの言葉を聞いてぞっとするとともに本当にこの政権は国民一部を除いた多くの国民を蔑ろにするのだと思ったのです。

「身の丈に合った」と言う言葉はむしろ良識のある判断として称えられそうな言葉ですが反面というか明確に「つけあがるな」という言う意味なのだとこのドラマで思い知らされます。

「身の丈に合った生活をしましょう」などと正論めいていわれたらぺっと唾を吐きましょう。それはあなたを排斥する言葉です。結果がどうであれ生きたいように生きていいのです。

体を衣服に合わせられるわけがないのです。

 

晶子は逆に一見おかしな人間なのですが心は逆にまっとうです。しかしまっとうな人間はこの日本社会では生きていけない、と言うお話でした。

 

まだ続きます。