ガエル記

散策

『弁護人』ヤン・ウソク

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予備知識なしで観始めたのですがこれは韓国大統領だった廬武鉉がモデルになっているのでした。それにも驚きました。

つまりこの映画の内容は反政府的であり映画公開当時の韓国政府に反感を持たれてしまうのは必至だったわけです。主演のソン・ガンホは当時政府のブラックリストに載っていたという話です。

 

当然ソン・ガンホ自身その不安はあったはずなのに本当にすごい俳優なのだと改めて思いました。

 

 

以下ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

とはいえ何も知らなかったので冒頭部分は妙に間延びしているように思えました。廬武鉉大統領の若き日の苦労を描写していたわけですね。

貧乏のあまり大事な勉強の本を売って食事をしようとした主人公ソン・ウソクは思い直して食い逃げして本を買い戻します。

これは廬武鉉大統領の実話だそうです。

苦労して弁護士となった彼は最初はとにかく金儲け主義で活躍するのですが食い逃げした食堂(すごいぼろっちい)の息子が突然「アカ」の疑惑で裁判を受けることになったとその母親から涙で訴えられます。面会しようとしても断られてしまうと。

食い逃げの恩義だけでなく母子に好意を持っていたソン・ウソクは彼女と一緒に息子の面会を申し込みます。そこに現れたのは拷問でぐったりとなっただけでなく精神に異変をきたした姿でした。

 

ここから映画は一気に加速していきます。

金儲け主義で友人にも疎んじられたソン・ウソクは拷問で嘘の自白をした学生たちを救うために猛然と突き進んでいくのです。

拷問をする軍人の憎々しさも相まって彼の活躍に目を見張る思いです。若き将校の証言もあって裁判はソン・ウソク側の勝利目前となったところで反撃されてしまうのです。

 

体制に抵抗することの難しさは日本社会でもどこでも(全部ではないかもしれませんがほとんど)同じではあるのでしょう。

しかし一般大衆の中でそれを映画作品にし鑑賞して評価していく能力は現在の韓国はとびぬけた存在として持っています。

一方日本は作り手も受け手も現在非常に弱くなっているとしか言えません。

最近の日本映画で『新聞記者』という作品が反体制だと話題になりましたがヒロイン役のオファーを日本女優では受けきれる人がおらず結局韓国女優に演じてもらうしかなかった、というのが如実に現状を表しています。

 

それにしても元韓国大統領・廬武鉉がこのような人であったと初めて知りました。ということはこの映画がなければ彼のことは何も知らないままだったということです。

私には大統領にしては優しい顔立ちの人だな、と思った記憶だけがあります。

実際にそうだったのですね。

しかしその最期は自殺というもので非常なショックでした。疑惑を受けての自殺はもしかしたら殺害なのではないかという報道もあったように記憶します。

それとも私がそう思っただけでしょうか。

大学にも行っていない彼が努力で弁護士となりそして政治の道を歩き出すことになっていく。

現大統領のムン・ジェインは廬武鉉と深いつながりがあるのだということも今回初めて知りました。

映画は様々なことを教えてくれるだけでなく様々なことを知ろうとするきっかけになります。