以前にもこの映画を観て「良い」という記事を書いたのですがその頃は集中力が欠けていていまいちよくわかっていませんでした。
今回観なおしてすばらしい映画だと再認識しなおしました。
以下ネタバレしますのでご注意を。
この作品のテーマは「赦し」であることは主人公リビーが言葉として使っていることでわかりますが、もっと大切なのは人を許した時に最も幸福になれるのは自分自身だということです。
リビーは幼い時に母と姉二人を惨殺され父はおらず唯一残された兄は殺人犯人となって投獄されてしまいます。それ以後のリビーはまさに「ダークプレイス=暗黒の世界」で30年近くを生きてきました。
既に中年の域にさしかかっても彼女には生きている実感がなく常に家族を殺され家族が殺人者となった「あの夜」が彼女を苦しめています。
この長い時間をリビーは「善き人」たちからの援助で生きてきましたがその援助も次第に底をつき次は惨殺事件に興味を持つ人々に頼るようになっていきます。
嫌な存在であるはずの「殺人事件おたく」との絡みからリビーの暗闇からの脱出が始まっていきます。
そして指図された「絶対に会いたくなかった幸福な家庭を破壊した兄との面会」がさらに彼女を導いていきます。
リビーを演じたのはシャーリーズ・セロン。美しい彼女は短髪にしてつねにキャップをかぶりひょろりとした体に飾り気のないジーンズとタンクトップを着ているだけで終始笑顔はなく、というよりも表情がないのです。
殺人事件の前までは明るく茶目っ気があったリビーは特に兄から気に入られていましたがその彼女は兄を憎み続けてきました。当然だと思います。
しかし家族3人の殺人は兄の仕業ではなく保険金を望んだ母親が雇った殺し屋と兄のガールフレンドが偶然同時に行ったものでした。
兄はガールフレンドの罪と(母親が依頼した)殺し屋の罪を被っていたのでした。
リビーは兄が罪を「赦していた」ことに気づきそして彼女自身もそれを認めます。
兄のガールフレンドは兄の子供を妊娠しており兄は自分の娘の将来を案じて罪を負ったのでした。
一度も表情を変えなかったリビーがかつて一家が住んでいた家を見に行きそこで昔の自分のような少女が遊んでいるのを見て微笑みます。
リビーは長い暗黒の時間をやっと抜けて人生を歩み始めたのでした。
素晴らしいミステリーでもあり人生の物語でもあります。
宗教の物語でもあり時代を写し取った歴史の書でもあるのです。
幸福とはなんであるのかを考えさせられますしそれは自分自身で見つけるしかないのだということもわかります。
小説や映画で数えきれないほど繰り返されてきた題材「殺人」を扱ってこのような特別な表現ができることに驚きました。