ガエル記

散策

『戦火のナージャ』ニキータ・ミハルコフ

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前作『太陽に灼かれて』は未見ですが引き込まれて観てしまいました。

あまり観る機会のなかった独ソ戦作品です。

冒頭のスターリンエピソードからして奇妙に怖ろしくぞわぞわしました。この共産圏独特の恐怖は耐え難いですがそれを弾圧する派も恐ろしいですからとにかくそういう両方の恐ろしい世界はごめんです。

 

ナチス兵士が恐ろしく、味方のイデオロギーも恐ろしい。

前へも後ろへも右へも左へも行けない。

平和と幸福はどこにもない世界です。

そんな世界を観たいのなら是非観るべき映画作品です。

 

ナージャもお父さんもまっすぐで優しく強いのにどこへも逃げられない何の救いもない。そんな世界を作ってしまってはいけないのです。

 

現在の日本社会はしかし見た目には平穏に見えるようでいて実際はこの映画の世界にも似ている気がします。

現在日本政府の思想はこの世界とあまり変わらない。

人々は常に怯え自己責任で生きぬくことのみが許されている社会です。

 

ナージャもお父さんも大変な困難の中それでも助けを求める人の声を聞いて手を差し伸べていきます。この強さ優しさをすべての人に求めるのは無理なのかもしれません。理想ではあるけれど。

現在日本社会はこのような戦争ではないけれど同じような戦火の中にいるように思えるのです。

私たちはナージャやお父さんでいられるでしょうか。

 

映画製作技術が素晴らしく苛烈に訴えてきます。

美しく詩的でもあります。

主演の父娘を実際の監督と娘が演じるというのも凄い。監督自身が驚く二枚目ですが娘さんがよくいる女性俳優の顔でないのがとても心に響きます。

魅力的なヒロインの顔、ということについても考えたくなってきます。