ガエル記

散策

『これでいいのだ』赤塚不二夫自叙伝 その2

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上の画像は読んではいない『おそ松くん』の拾い画像です。

当たり前ですがこうして見ると『おそ松さん』の可愛さは『おそ松くん』からちゃんと抽出されたものであるのが解ります。

何も知らなかった以前は赤塚不二夫氏がなぜ「六つ子」なんていう描くのが大変な設定を考え出したのか「変な人だなあ」と思っていました。しかも長男のおそ松だけをとって『おそ松くん』って。なにもかも不思議です。

とにかく同じ顔を六個描くなんて大変です。双子が平凡なら三つ子くらいでもよさそうなのに「六つ子」なんて描くの面倒なだけじゃないですか。

が、今回自叙伝を読んでわかったのです。

 

以下ねたばれしますのでご注意を。

 

 

 

赤塚不二夫さんは六人兄弟の長男なのです。

そしてそのうちのふたりの妹さんとは死別しひとりの弟さんは養子となり無事に家族に残れたのは不二夫さんを含む3人兄弟だけになってしまったのでした。

本に書かれているわけではありませんが不二夫氏はせめてマンガのなかで6人の兄弟が元気に暴れまわっているのを見たかったのではないのかと思うのです。

そう考えてしまうと『おそ松くん』そしてその後にリメイクされて活躍する『おそ松さん』の彼らがいじらしくも思えます。

 

それにしても赤塚不二夫少年期はやはりというか思う以上に凄まじいものでした。昨日書いた抗日ゲリラ相手に戦う特殊な警察官だったお父さんの仕事の反面、不正を嫌い優しい人格のおかげで日本敗戦後を生き延びられただけでなくその中で日本へ帰る道程はそれを体験しなかった者には決してわからない恐ろしい労苦であったはずです。

 

敗戦後、赤塚家は満州から日本へ帰る前にお父さんはシベリアへ抑留となりお母さんはひとりで四人兄弟を抱えての旅になるのです(一人の妹は夭折しています)

母親と不二夫氏が荷物を背負い、一番下は乳飲み子は長女がおんぶしてその手には弟がつながっているという逃避行です。

そして多くの引き揚げ者が語るようにここでも様々な困難を乗り越えていかねばなりません。

そうして日本にたどり着きお母さんの故郷に戻れたと同時に小さな妹が息を引き取ってしまうのです。

それを不二夫氏は「お母さんを助けてくれた」と描写します。

悲しい思いです。

 

赤塚マンガは今のものと比べとても家族愛がある、というのが特徴ではないでしょうか。

おそ松さん』で女性たちが魅力を感じたのは六人兄弟の強いつながり、関係性でした。

バカボン』ではもちろんバカボン一家の愛情が根幹となっていますし私が一番好きだった『もーれつア太郎』は父親が幽霊となって息子を見守る、という父子愛から始まっています。

デコッ八とア太郎の師弟愛(?)も好きです。

 

おそ松さん』のヒットは今ではあまり描かれることが少なくなり希薄になっていく家族愛・兄弟愛に憧れてしまう自分に驚いたからかもしれません。

 

 

 

ちょっと付け足しですが、自叙伝には赤塚さんをイメージさせる描写もまたあります。

ときわ荘時代に一番の美青年と言われた赤塚不二夫さんは幼少期もとても綺麗な可愛らしい少年だったようです。

通りすがりの女性が振り返って「アイヤー!ピャオリャン!」と叫んだとのことです。本人は「西施の生まれ変わりと言われた」と図に乗っておられますが女の子にもすごく好かれる記述があり、多くの自叙伝は「まったくもてなかった」と書かれることが多いのを思えば本当にかわいい男の子であったのでしょう。

思えばおふたりの奥様が仲良しで不二夫氏を好きだったという逸話もありますしタモリさんも不二夫氏が大好きのようだし可愛いだけでなく人に好かれる性格なのだと思います。