ガエル記

散策

『誰も知らない』韓国ドラマ

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鑑賞完了。噂にたがわぬ面白い連続ドラマでした。

キム・ソヒョン演じるチャ・ヨンジンのかっこよさに痺れるドラマであるのは間違いないですがやはり魅力を感じてしまうのはペク・サンホなのです。

 

ということはこの作品の主人公は女性ではありますが男性的な構造になっているといえるでしょう。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

男性的女性的で区別すること自体どうか、とも言えるのですが物語の区分けとしてすでに語られていることでもあるし先日自分で思いついた(これもすでに言われていることではあるのかもしれませんが)『少年マンガは敵との戦い、少女マンガは自分との戦い』も併せて考えると本作はやはり男性的であり『少年マンガ』的であると言えます。

男性的な物語構成は主人公が巨悪と戦い勝利する、ことが目標なのです。なのでこの『巨悪』がいかに恐ろしい存在なのか、が非常に問題になります。より強くより賢くさらに権力や財産を持ち容姿も美貌でありスマートであるほど主人公は負けてしまうのではないかという不安と怖れを生み出します。それに打ち勝つのが主人公の熱意や正義・愛情友情連帯感となっていくわけです。観客はその一員となって応援するわけです。

しかし反面あまりにも敵の偉大さを演出した結果、主人公以上に敵のほうが魅力的に見えてしまう可能性があるわけです。

本作の宿敵であるペク・サンホはまさにこの演出を結集した形になっています。しかもその上生い立ちの悲劇も加味され暗黒界の王というべき存在です。

常に鷹揚とした態度、常に冷笑を浮かべ人を馬鹿にしている視線。礼儀正しい振る舞いも恐怖感を増しています。

 

彼の魅力こそがこの作品が男性的構造「主人公が敵となる巨悪を倒す」である要因です。

 

一方女性主人公に目を移すと彼女もまた非常に魅力的なキャラクターですがそれは学生だった頃からあまり変化していません。物語の発端となる事件も彼女の人格そのものから起きたというよりは偶然のすれ違い、というべきでしょう。

彼女の努力で地位や権力は向上しても自身の人格や思考が変化し成長していくのではないことで本作は女性的構造「主人公自身の中に敵がありそれを克服するために成長する」のではないことがわかります。

 

したがって女性が主人公ではありますが女性的な物語ではないのです。

 

敵であるペク・サンホもまた改心したり変化・成長するのではないのですね。

 

第二の主人公的コ・ウノ君も最初から良い子で変化しません。本人ではなく周囲が変化していく完全な男性構造になっています。

 

だからと言って何、というわけではなく構造の解釈をしてみました。

 

そうして考えるとやはり『羊たちの沈黙』は極めて女性的な物語なのですね。

あの作品の敵にあたるのはレクター博士ではなく女性誘拐犯人ですがまったく魅力的ではない悪人として描かれているにすぎません。

主人公クラリスレクター博士という不気味な人物によって成長・変化していきます。

レクターは当代きっての極悪キャラですが物語としては「味方」の位置にいるので混乱してしまいますがあくまでクラリスにとっての「敵」ではないのです。

 

 

という分析を楽しんでみました。

韓国ドラマ班は本作は男性的構造でいこう、と選択したに過ぎないと思っています。そのくらいは単純に考えているレベルです。