ガエル記

散策

『ラストウォー1944 独ソ・フィンランド戦線』アンティ・ヨキネン その2

f:id:gaerial:20210707043258j:plain

そしてこちらが『Kätilö』で検索して出てきた画像です。素晴らしいとまでは言い難いですがさすがに内容をイメージさせる仕上がりになっています。

日本版はこちら

f:id:gaerial:20210706060913j:plain

大きく映っているのが上ポスターでロマンチックな横顔の彼です。そして右下隅の小さな女性が主人公で上のポスターの真ん中にいる彼女です。

この二つのポスターが同じ映画だとは思えませんね。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

本作は色々な意味で新しさを感じさせます。

第一はなんといってもヒロインの描き方でしょう。

これまでの戦争映画ならば「助産婦」の仕事をしてナチの手助けをしているような女性でその兵士と恋に落ちてしまう、という設定なら思わず見入ってしまうような嫋やかに美しい繊細な女性を選ぶのが当然でした。

だけど本作の主人公女性ヘレナは相手のドイツ兵士より背が高くがっしりとした体格で細面に丸縁のメガネをかけ眼光鋭く意志が強く堂々としています。

ハンサムなドイツ兵士に一目惚れして彼の後を追いかけていった先が地獄のような恐ろしい場所ー人体実験を行う収容所でした。

助産婦をしていたヘレナはここでチフスコレラを捕虜に投薬するなどの仕事を任されます。

舞台となるフィンランドはこの時点でドイツ軍と休戦協定を結んでおり主人公はナチにとってはもう「敵」ではなく収容されている捕虜はロシア人です。とはいえヘレナたちフィンランド(そしてラップランドという地方)人にとってドイツ兵たちの存在が穏やかでいられるわけもありません。

しかもそんな中でヘレナは一人のドイツ兵ヨハネスに心を奪われてしまうのです。彼が何か特別なことをしたわけでもなくまさしく佇まいに恋してしまった、という感じでした。

一方のヨハネスはヘレナに少しずつ好意を覚えていく感じです。この過程もかつての映画では逆のパターンが多かったはずであえてこの設定をしたのだと私には思えました。

ふたりが仲を深めていく時も積極的なのはヘレナでありそんな彼女にヨハネスが引き寄せられていく、という描写になっています。爆撃に震えるヨハネスを励ますのもヘレナでした。

こうした逆転的な表現はやはり今までとは違う映画を作りたい発想から生まれているのでしょう。

ヘレナはヨハネスを深く愛し、自分が進んだ道とはいえ収容所での行為を憎悪し所長であるSS将校ゲーデルに反抗していきます。

このナチ将校ゲーデルの描き方もこれまでとは違う価値観と演出を思わせます。

命じられた地獄の所長をやり遂げなければならない憐れさです。

老けて痩せこけた容姿にもそれが感じさせられました。

 

このあたりの設定に『ノートルダムのせむし男』を思い出してしまいましたが、ヨハネスはせむし男カジモドとハンサムな衛兵フェビュスを兼ね備えているといった感じでしょうか。

ナチ将校ゲーデルは一見立派だが残酷な司祭フロロです。

美しいジプシー娘エスメラルダがヘレナとなりますが憐れなエスメラルダと違って本作のヒロインは自ら戦い抜き愛を勝ち取りました。

私は『ノートルダム』のエスメラルダの描き方に不満を持っていたのでこの映画で払拭された思いです。

 

しかもキリスト教会とナチによる人体実験収容所が重ねられた舞台になるというのは恐ろしい比喩です。

 

それにしても本作はやはり新しい形の映画だと思えます。

これからもいろいろな形式で新しい戦争物語は作られていくでしょうが、本作はその重要なテキストになるのではないでしょうか。

 

マンガアニメ小説なども含めクリエイターには是非勧めたい一作です。