ガエル記

散策

『SonnyBoy』と『漂流教室』と『AWAY』

先日『SonnyBoy』第一話に感激して原案となっているという、未読だった楳図かずお漂流教室』を一気読みしました。凄いマンガ作品でした。

そしてこれは既読『AWAY』(萩尾望都著)が『漂流教室』から多大な影響を受けているのがわかりました。

先日私は『SonnyBoy』を観てむしろ『AWAY』を思い浮かべたのですがそうなるとこの三作品はつながっているのかもと思いました。

 

とはいえ萩尾望都氏は『AWAY』一巻巻末に『漂流教室』について一言述べられてはいますが『SonnyBoy』が『AWAY』の影響があるのかはまだよくわからないわけですが。

 

とりもなおさず『漂流教室』は他2作品の大元であるのは確かです。

 

 

以下ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

「確かです」と書いてしまいましたが『漂流教室』を今回初めて読んでいて私は大きなショックを受けてしまいました。

ひとつはその『AWAY』について萩尾望都が原案だと書いたのは小松左京『お召し』なのですが私はこの作品を未読なのでその比較は今書けません。

萩尾氏が説明されているとおり年齢で分離されてしまう世界というアイディアを12歳から18歳に引き上げたことで別の構想ができたのだろう、と考えていました。

その説明の中にタイムスリップする作品として『漂流教室』のタイトルをあげられてはいるもののそこから大きな影響を受けた、とは書かれていません。

しかし『AWAY』をすでに読んでしまった私が『漂流教室』を読んでいるとあちこちで『AWAY』はここから影響を受けたのではないかと重なってくるように感じました。

これは「真似した。パクった」というような単純なものではなくそのテーマ、目的、精神性といううような奥深いところの「なにか」です。

漂流教室』は楳図氏がもともとホラー作家であることからもあってぞっとする怪奇現象・恐怖が襲ってきます。

萩尾著『AWAY』はそれに比べるとまったく明るい作品になっていますが「どうしようもないのではないか」という不安・恐怖は『漂流教室』から受け継がれており特に異常な精神を持つ高山リストのキャラクター造形は『漂流教室』の教師や関谷から生まれたのではないかと思ってしまうのです。

こうした恐怖感が他の萩尾作品とはかけ離れたもので読んだ時は非常な衝撃を受けたのですがもしかしたら萩尾氏は執筆時参考に読み返した『漂流教室』のぞっとするイメージをそのまま再現してしまったのではないかと想像してしまうわけです。

 

もうひとつ、『AWAY』のヒロイン一記(カズキ)は本当は年上の大介と恋人同士だったのに彼が先にHOMEへ行ってしまったせいもあってトビオと深い関係を持ってしまう、という設定になっているのがちょっとだけ不思議だったのですがこれも『漂流教室』で主人公・翔くんが仲良しだった咲っぺより西さんというか弱い美少女を好きになってしまう物語の影響を受けてしまったのではないのでしょうか。

 

他、『漂流教室』の未来と現在がつながる方法があるように『AWAY』でもHOMEとつながる方法を見つけ出します。このアイディアが面白くて笑ったのですが『漂流教室』では切ないほど悲しく愛情深いアイディアだったのもまた驚きでした。

 

では二つの作品の違いは、というとこれも悲しいことに相変わらずの萩尾望都氏の親への不信からくるものです。

漂流教室』で読者が最も感動してしまうのはなんといっても未来へ行った主人公・翔くんと現在にいる彼の母親との強いつながりでしょう。

翔くんの母親は未来にいる(と信じる)息子のために周囲から精神異常と思われるのもかまわず息子を救いたい一心で駆けずり回り自分の腕を入院が必要なほど切りつけるのです。

最後に翔の帰りを信じて立ち続ける姿にも打たれます。この場面は萩尾望都バルバラ異界』を彷彿とさせます。うーむ。萩尾氏。ご自分で思っている以上に梅図先生に影響を受けているのではないですか。

一方、萩尾氏『AWAY』は主人公と親たちのつながりが極端に薄く親は存在しているのにもかかわらず娘との愛情でつながったりしないのです。

 

漂流教室』の主人公・翔くんが最初から最後まで母親を呼び続け母もまた息子を求め続けるのとまったく違います。

もちろん何も知らなければ「そこが似ていたらパクリになる」と言えますが萩尾氏作品が「親との愛情・つながり」を信じていない、ことからくる差異であるのを感じます。

 

『AWAY』は非常に面白いSFなのですが大人と子供が分離してしまう、という設定にしたにもかかわらず「親と子」の表現が乏しかったのが弱点だったのだ、と今更気づきました。

それに引き換え萩尾著『バルバラ異界』では同じように世界が分離してしまう設定のなかで親と子の物語を強く打ち出して描いています。

バルバラ異界』の主人公で父親の立ち位置である渡会はまるで『漂流教室』の翔くんの母親の様に息子を愛していてひとりで奮闘します。彼の造形は翔くんママのイメージから生まれたのではないか、というのは考えすぎでしょうか。

 

さて『SonnyBoy』がすっかり置き去りになってしまいましたがそんなこんなでこの新しい作品に期待と不安を持ってしまいます。

第一話ではまるきり子供たちだけの世界でした。

漂流教室』を元ネタにしていると公言しているこのアニメ作品はこの先どのような展開になっていくのでしょうか。