なかなか良い感じの映画でした。
監督のバヨナ氏はデル・トロ監督と親交深いだけあって子どものファンタジー世界がとても魅力的に描かれていると思います。
ネタバレしますのでご注意を。
醒めた感想になってしまいますが本作が優良であるのは間違いないのです。
ただあまりにもよく出来すぎていてさほど引っかかるところがなかったのかもしれません。
主人公の少年は容姿も繊細で内気な感じが愛らしかったしお母さんもいいのですが、おばあちゃんがシガニー・ウィーバーなのは「彼女がやっつけてくれるのか?」というしょーもない期待をさせられるので失敗なような気がします。シガニーは大好きですが。
いじめっ子少年が変にハンサムなのも「ほんとは良い子なのか?」という変な期待をさせられてしまいました。
どちらも勝手な思い込みですが。
というわけで本作自体は優良作品で誰に勧めても良い作品であるとは思います。
しかし私として気になるのはやはりポスターと映画タイトルです。
ここでもう一度上の日本版ポスターを貼ります。
そして原版ポスター
相変わらず日本版ポスターは説明文多すぎでしかもネタバレまでしてくれています。受賞したとかダークファンタジーとか書かないと集客できないという理由でしょうか。
さらにいつものことですが色彩がけばけばしく本来のファンタジー感が失われました。
原版はノスタルジックなセピア色で絵だけでこの内容が少年の夢の世界であることを暗示させています。
ポスターの出来不出来はいつものことですが今回私はタイトルに目が留まりました、
日本版タイトルは『怪物はささやく』ですが原版は『A Monster Calls』ではありませんか。
つい先日学習したのですからそうそう忘れるわけにいきません。
そうです。『Calls』
本作は辛い人生の中で自分の真実の声を抑圧し続けてきた少年に怪物が問いかけたのです。
少年はそれに答えなければなりません。
主人公少年は心の中の押さえつけていた嘘をモンスターによって「コール」され「レスポンス」したわけです。
ところが日本語版になると「怪物はささやいた」だけですからこれに答えようがないではないですか。
せめて『怪物は呼ぶ』もしくは『怪物は問いかける』もしくは『モンスタークエスト』なんていうほうがわかりやすかったように思えます。『モンクエ』です。
やはり欧米文学では「人生は問題に答える責任がある」という意識があるということであり日本人はそういう意識がまったくないのだと思わされます。
こうした子供向けファンタジーにもそれが核心としてあるのです。
バヨナ監督はスペインの人なのでそうした意識がまた単なる英語圏人とはやや異なるのが作品に不思議な深みとなるのかもしれません。
こういう気付きに至るとは思いもよらずの鑑賞でした。
重要なのは怪物による「コール」と主人公が絞り出す「レスポンス」なのです。
思えば幼少期に読んだ欧米の文学も怪物が問いかけそれに答える、というスタイルのものがよくあった気がします。
すぐに思い出したのは小鬼の名前を三日のうちに答えねばならないというやつです。
窮地に立たされた少女が小鬼によって助けられるのですがその代価として「返答」を求められるのです。そして名前を答えきれなければ小鬼と結婚する?だったでしょうか。
偶然少女は小鬼の名前を知ることができて助かる、というものでした。