ガエル記

散策

『ザ・ビーチ』ダニー・ボイル

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ダニー・ボイルつながりのつもりではなく偶然でした。

例によって『SonnyBoy』の参考にならないかとの選択です。といっても誰かに勧められたわけでもなくしかも未見だったのですが「そういえば気になるタイトルの映画があったなあ」というインスピレーション的なものでした。

尚且つこちらはイメージがつながる『トレインスポッティング』と同監督だと気づいて「おやおや」という心境です。これはもしかしたらもしかする?

 

本作はレオナルド・ディカプリオ人気絶頂だった『タイタニック』直後の映画だったのを記憶しています。

私はまったく観もせず『ザ・ビーチ』と言うタイトルとちらっと聞いた内容で能天気なラブストーリーと思い込み観ようともしませんでした。

この時も『トレインスポッティング』と同監督とは思っておらず。

20年後に観た今非常にその時の判断を後悔していますがもしかしたら観ても面白さを理解できなかったような気もします。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

 

ザ・ビーチ』とても奇妙な味わいのある作品です。これもダニー・ボイル監督の並外れた才能なのでしょう。

現実での幸福を得られず別世界に理想郷があるのではと夢見る若者たちがその場所への地図を手に入れたら。一人では怖くて成し遂げられなくても同行してくれる仲間と出会えたら。

こうした設定の青春ムービーは目新しいものではなくむしろ掃いて捨てるほどあるのかもしれません。それを言えば『トレインスポッティング』のような堕落する若者たちの映画も唸るほどあるのです。

しかしボイル監督はありきたりともいえる内容で目の離せない展開として作り上げる魔法の粉(もしかして麻薬?)を持っているかのようです。

 

いやもちろんそれは冗談で当然ながらボイル監督が多大な知識と優れたセンスと技術の持ち主なのだからに違いないのです。

 

そしてこの映画を観ていると今まで自分が見聞きしてきた様々な事柄を思い出させます。

真っ先に思い出すのは日本の中でも一時期、沖縄を理想郷と崇めるような風潮が盛り上がったことです。

時間に追われる東京などと違い沖縄ではゆっくりと時間が流れ酒を飲み歌い踊りのんびりと人生を楽しむ人々、家族愛が強い優しい思いやりのある沖縄のひとたち、というイメージの作品が次々と作られていた時期がありました。

しかしかつて沖縄の戦中戦後にどれほどの恐怖と悲しみの歴史があったかがいや今でも本土の日本人たちが沖縄にどんな犠牲を払わせているかを知らせられるとそうした酒と歌と踊りの楽園を何も考えず満喫することはできなくなってしまったのでした。

 

ザ・ビーチ』では主人公リチャードが夢の楽園に冒険の末たどり着き、その美しさに心酔し幸福を得ます。

がその後、その楽園がどのような犠牲を払うことで成り立っているのかを知らされるのです。

鮫に噛まれ瀕死の仲間の呻き声に楽園の住人たちは渋い顔をします。

その苦悶の声を聞かされると楽しめないのです。

「完璧なリゾートビーチの幸福を邪魔する奴は許されないのだ」とリチャードは彼の呼吸を止めてしまいます。

 

これは現在社会でも常に行われていることです。

嫌なことを発言する者に

反日だ」

というレッテルを貼り

「出ていけ」

という人々の姿は楽園のリーダー・サルとそれに従う仲間と同じです。

楽園のすぐそばには禁じられた麻薬畑がありそれゆえに楽園の仲間たちはその幸福を守っていられたのですがそれはそのままいつ崩壊してしまうかの危険性も含んでいたのです。

それは日本の中の原子力村にも通じる気がします。

 

さらに思うのは欧米白人たちから見た異世界への憧れはずっと昔から存在していることです。

本作ではそれがアジアの中のタイとして描かれています。

映像はタイという国が発展途上で蛇の生き血を飲み、自堕落で違法がまかり通る世界、と描き出します。

迷える若きリチャードはだからこそ「タイ」と言う国に楽園があるのではないかと夢想したのです。

欧米ではアジアは放埓な性を楽しめる楽園というイメージでとらえられていてその夢想は日本人も同じように持っているようです(アジア人なのに自分たちは違うと言いたいらしい。しかし日本も同じように観られているのが現実)

以前はヨーロッパ人がアフリカに対してそうしたイメージがあったのがいつしかアジアに移った感はありますがどちらにしても「お堅い自分たちとは違ってアジアアフリカ人はセックスを楽しんでいる」という話なのですがアジアアフリカ人は欧米人が性にみだらと思っているはずでどっちもどっちってことなのでしょう。

 

ラスト、なんとか生き永らえて元の生活に戻れたリチャードはつまらない世界でパソコンを開きます。

そこで恋をしたフランソワーズからビーチで撮影した幸福な時期の写真が送られてくるのです。

パラレルな宇宙。

一瞬の笑顔が曇るリチャード。

それは夢見るだけが幸福としておくべき、あり得ない世界なのです。

 

 

さてこれは『SonnyBoy』にまさに生かされているように思えます。

アニメが始まりあまりにも美しいビーチにたどり着きそこで思う存分幸福をあじわった少年少女たちという描写が不思議だったのですがこの『ザ・ビーチ』の楽園描写とまったく同じだと感じました。

サディステッィク女性教師とリーダー・サルのイメージも同じ女性ということもありかなりかぶります。

ということは・・・恐ろしい運命が待ち構えているってことでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

付記:千葉真一氏が逝去されました。ご冥福をお祈りします。

私は『キイハンター』で彼が大好きでした。

千葉氏は英語圏では「Sonny Chiba(サニー・チバ)」と呼ばれていました。

なので『SonnyBoy』が始まった時私がすぐに思いだしたのが彼だったのです。

『SonnyBoy』のタイトルが何から生まれたのかわかりませんがここにも不思議なつながりを感じてしまったのです。