確かにこれは見ごたえありました。
ネタバレしますのでご注意を。
山の中の学校、崩れそうなほど古い建物、トキが次々とアクシデントを起こしても「大丈夫、歴史は変わらない」というヒカルの判断。
そうしたことがすべて「皆死んでしまうから」だったという絡繰りだったのです。
しかもそれが歴史に残る「四川大地震」が起きたためだったという悲しく恐ろしい物語でした。
そしてもう一つの物語が今回の話に絡み合っています。
これまでにもトキが子供の頃に両親がいなくなってしまったことが語られていました。
今回の事件が2008年だったことでトキはすべてを把握します。
なぜ自分が何かしでかしても歴史を改変してしまわないかを。
そしてその時、2008年の幼かった自分が両親の安否を憂いて怯え泣いたことを思い出したのでした。
こうした歴史的事実を絡めた物語づくりは定番でありながらやはりダイナミックな効果を生み出してきたことを私はよく見てきました。
とはいえそれを扱うのは勇気も必要です。事実を知る多くの目があるからです。
この作品では当時そこに住んでいたひとりの高校生だった人物の回顧録として時間がよみがえります。
初恋を感じた少女、バスケ部の良き仲間たち、人の好い教師、帰らぬ夫を待ちわびる母親の手料理、のどかな山村、古びた校舎、都会に早く行きたかった自分自身。
SF的手法も巧みでしたが私が惹かれたのは山村の光景でした。
キャプテンを後部座席に乗せて走るチェンシャオ=トキの奮闘。
母親の作ったご馳走を食べる時、開け放たれたドアの向こうに見える美しい風景。
そして何よりも大切な愛する人たち。
意味を知ったトキは無我夢中で走りだします。なにをどうしようとしたのか。
今から起きることを皆に知らせたかったのでしょうか。
しかしヒカルの声が「歴史は変えられない」とトキを止めました。
このちぎれたような終わり方も秀逸だと思います。
前回でも書きましたが『時光代理人』は日本流アニメ手法を越える力を感じます。より映画的な視点と感覚です。