ガエル記

散策

『新・平家物語』溝口健二

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退屈するかと思いきや案外面白く観てしまいました。

なんといっても冒頭の巷を俯瞰する長回しが圧巻なのですがそれだけではなく、というか全編で観られる家屋、風景、衣装、調度品そして立ち居振るまい言葉遣いを追っていくだけでも興味深い。

1955年・昭和30年公開映画つまり戦後数年後に作られた映画がこんなにも力強いというのも凄まじい。それを考えると暴挙を起こす僧侶たちがかなりの体格なのは感心してしまいます。

 

以下ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

『シン・ヘイケモノガタリ』である本作。

今現在アニメ放送されている『平家物語』と何が違うのかと言えば栄枯盛衰を描いたのが『平家物語』であり吉川英治原作から作られた本作は主人公清盛の青春時代から描かれつまりは平家が公家の犬とされていた状態に抗い上り詰めていくさまが描かれている、ということらしい。

とはいえ本作は清盛が浮かれ遊ぶ貴族たちを睨みつけ「今のうちに舞い踊るが良い。明日からは我ら平家が天下を取るぞ」と誓う場面で終わっている。どうやら三部作の第一話にあたるのが本作らしいのですが、タイトルに記されてもいないのでちょっと驚いてしまいました。

 

市川雷蔵演じる清盛の眉毛が立ち上がって凄いのが耐えられないと書かれているレビューも多々あるのですが今煉獄さんを見た後でならあまり気にならないかもです。煉獄さんありがとう。

 

私はどういうわけかもともと源平では平家贔屓なのですが一般的に平家はいつも悪党になっているのが不満でした。

今放送中アニメ『平家物語』もタイトルが『平家物語』であるにも関わらずやっぱり悪党描写なのが気に入りません。

その点『シン・ヘイケモノガタリ』は清盛の心の機微が共感できるよう描かれていて好ましく思えました。単純ですが。

特に清盛が結婚したいと願うようになる女性・時子との出会いの場面はとても素晴らしい。

貧乏貴族の娘である時子はしっかり者で糸の染め物や機織りなどで忙しく働き清盛が訪問した折には貴族らしい装束に着替えて応対をするが指先が染まったままであるのを父親にとがめられても物おじせず受け答える様子が清々しい。

清盛が好意を寄せるのがとても共感できる。

時子を演じたのは久我良子。この方は本当に貴族の家系だということで生活のために働かなくては、というこの場面はまさにそのままだったわけです。

この場面の久我良子の発声がとても良い感じです。丁寧だけどきびきびきっぱりしたこの発声法は今の俳優からはあまり感じられないものです。

『スパイの妻』で蒼井優が当時の女性を模した発声は確かにこの感じに似ています。

 

そして清盛の母・泰子の存在のなんと奇妙な美しさ。

白拍子といういわば遊び女でありながらも白河上皇の寵愛を受けていたということで凄まじい気位の高さを持ち上皇の命で身分の低い平忠盛の妻となって生活した年月を悔いている。その後公家の世界に戻って再び雅な遊び女となるのも凄い。

彼女の貴族的な髪形や衣装は今現在観るものとは印象が違う。十二単の厚みや髪質に見惚れてしまいます。

そして袴さばきの足元にも注目。どうしてあれで躓いてしまわないのか、感心するしかありません。

そしてやはり長い間武士たる平家の妻であるのに不満を持ち幾人もの子どもがあってもやはり貴族の生活が好き、という泰子のきっぱりとした態度にもかえって感心するのです。

こうした描き方、今ではあまりないように思えます。

 

というわけで清盛はじめ男性たちよりも時子と泰子ふたりの女性に目を奪われる『新・平家物語』でありました。

 

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この胸元にも目が行きます。これは本当なのかしら。