ガエル記

散策

『クエシパン (Kuessipan)』ミリアム・ヴェルー

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2019年製作カナダ映画です。

監督のミリアム・ヴェルー氏はたぶん白人女性でここで描かれているイヌーの一員ではないと思われます。

が、原作と共同脚本のナオミ・フォンテインはイヌーの女性で、監督は彼女の小説を読み感動して映画化にあたったと記されています。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

カナダ・ケベックにある先住民居留地に住む仲良し二人の少女の物語です。

上写真向かって左のミクアンは幸福な家族の中で育ち詩の勉強に打ち込んでいて大学へも進み居留地の外へ出ていきたいと望んでいます。

もう一人の少女シャニスは高校を中退し同じイヌーの男性との間に赤ちゃんが生まれますがその夫は暴力的でたびたび彼女を殴ってしまうのでした。

 

幼いころから親友だったふたりが少しずつ別の方向へと歩き始めたのです。

 

最近は映画もなかなか入り込むことができず嫌になって途中でやめてしまうことが多くなっているのですが本作はそんな気持ちにはならず観通してしまいました。

淡々とした描写なのですがふたりの少女を中心にイヌーの人々の生活と普段はそこに交わることのない白人たちの描写が映し出されていきます。

 

原作者ナオミ・フォンテインであるだろう主人公ミクアンはヒロインとしては珍しいかなりの肥満体ですが家族も含め肥満気味の人が多いのはなんらかの原因があるのでしょうか。

とはいえミクアンは詩作を含め自分の将来を建設的に考えていて白人の白人のボーイフレンドを作るのにも積極的な少女です。それは彼女が愛情豊かな家族の中で育まれた健全な思考のように思われます。

一方親友のシャニスは細身で美人ですが家族的な愛情に乏しいのです。そうした身の上にありがちな話ですが早くに恋人ができてしまいます。その愛情表現が最初から暴力的なことをシャニスは受け入れてしまうのです。

比較すればミクアンのボーイフレンドのフランシスはずっと優しく描かれています。もちろんミクアンの性格からしてもしボーイフレンドが暴力的行動をしたならすぐに拒否したはずです。若干ミクアンのほうが威圧的でもあります。

 

現実に白人から定められた居留地に住まなければならないという括りと差別意識は映画からだけではわかるわけもありませんがこの作品はそこだけに焦点を当てているわけではないと感じます。

世界中のどこでも差別意識や家庭問題や人生の苦悩は様々な形で存在します。

その中でどんな人生を選択し歩んでいくのか、はそれぞれであり完全な正解はないのです。

ミクアンは外の世界へ飛び出し勉強し本を出すまでになるのですがその中に記したのは幼いころからの親友のことでした。

ミクアンはもちろん自分の意思決定を信じて出発したわけですが居留地に残り相変わらず暴力的な夫に苦しめられながら一人で三人の子どもを育て30歳になって仕事をはじめ35歳で学校を卒業する親友の人生にも感嘆したのです。

シャニスは親友が本の中で自分のことを賛辞し祝福していると感じたのです。

居留地の女性たちはとてもよく笑う」

その笑いの中には悲しみもありその悲しみを打ち消す力もあります。

 

まったく知らない遠い土地の見知らぬ人々の話でありながらとても身近に感じられる作品でした。

まさかそんな感想を持つとは思いもよりませんでした。

イヌーの人々のフランス語も魅力的でした。

 

 

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