本作はリアルタイムで読んでいました。ラストは読まなかったのか記憶していませんでしたがかなり覚えているほど強い印象のマンガ作品です。
ネタバレしますのでご注意を。
女子校における同性愛的物語、と説明されてしまうであろう本作ですがあくまでも「的」であって同性愛ではないのが池田理代子作品なのです。
現在の感覚としてはそのまま女性同士の関係を保つカップルがいてもいいと思われるのですが、本作でその関係は女学校内の一時的な感情、と判断されているように思われます。
なので真実のレズビアンカップルを期待される方はがっかりなのかもしれません。
と書いてしまうと私が本作を嫌っているかのようですがそうでもありそうではない、という微妙な感情になってしまうのです。
池田氏の『ベルサイユのばら』『オルフェウスの窓』でも同じモチーフが繰り返し描かれます。
男装の麗人、同性愛的な感情。しかし結局は男女を結び付けていく、という繰り返しなのです。
私としては池田氏の「同性愛的感情に惹かれながらも本能は異性愛を選ぶ」という感覚の作品に微妙な偏見を感じてしまうのですがもしかしたらそれこそが王道なのかもしれない、とも考えられこれまでいまいち乗り切れずにきました。
ただし池田氏にはずば抜けた美の感覚と描写力があるのは確かでここにきてもう一度読み込んでみたくなったのでした。
『おにいさまへ・・・』は舞台こそひとつの女学校内での物語ですが描かれる内容はほぼ『ベルサイユのばら』そのものです。
学校内に作られた特権階級「ソロリティメンバーズ」他の一般生徒とは違う優れた人間と見なされるという仕組みは『ベルサイユのばら』の貴族階級と同じです。
主人公・奈々子はその中に選ばれ美しい上級生に憧れながらもその制度に疑問を持ち、やがて薫の君たちと共に制度を解体していきます。つまり革命を起こしたわけです。
とはいえ、こちらの革命は武力ではなく「投票」という極めて民主主義的行動でした。そこに意味を持たせたに違いありません。
主人公・奈々子がサン・ジュストと呼ばれる朝霞れいに惹かれるのは『ベルばら』のロザリーとオスカルのイメージでしょうか。
マリー・アントワネットそのままの女帝・一の宮蕗子、サン・ジュストと呼ばれる朝霞れい、やがて「おにいさま」である辺見武彦と結婚する薫の君がアンドレ似なのがもっとも倒錯的かもしれませんw
疑問は多々感じますが女学校内の特権階級をここまで美しく艶やかに描けるのはやはり池田理代子氏の力量ならではです。
私はかつて信夫マリ子さんがとても好きでしたが今読み返してもやっぱり彼女の魅力は絶対だと思えます。彼女を造形しただけでもこの作品の価値はあると信じます。
同性愛そのものではない百合的作品ではあるもののどうしようもなく惹かれてしまうこの感覚、それもありなのかもしれません。