ガエル記

散策

『あのこは貴族』岨手由貴子

「とても面白い」「今期最高の映画」という評価を読んだり聞いたりして気になっていたのですが鑑賞一度挫折し今回鑑賞完了しました。

確かに現在日本映画の中では非常に密度のある集中して製作された映画と思いましたが心から絶賛したいかと言われると躊躇してしまうのは何故でしょうか。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

映画『あのこは貴族』は日本の中の「東京と地方」そしてそれぞれに存在する階級を真正面から描いたものと言えるでしょう。

最近はあまり言わなくなった気がしますがこの「真正面から描いた」という表現は日本映画を評する時によく使われてきて賛辞感があるようですが逆に言えば露骨とも言えます。

 

本作を観ているとどうしても『ガンダムシリーズ』を思い出さずにはおられないのですが『ガンダム』というアニメ作品ではその人生運命を定められたエリート軍人(シャアやガルマ)と地方出身的存在(アムロ)との対立が描かれていきます。

シャアは復讐など諦めて別の人生を歩む道もあっただろうしガルマやアルテイシアもそうだったのですが結局その道を進むしかありませんでした。

対してアムロは天才ニュータイプですが貴族ではない彼は根無し草のようなもので何をやっても許されてしまいます。逆に言えば努力しないと孤独で取り残されてしまうわけです。

このようにロボットSFの中で貴族と平民、都市部と地方、目立つ者とその他大勢という対比が描かれるのはガンダムシリーズにおいて前作の『オルフェンズ』そして現在進行中の『水星の魔女』でも濃厚に描かれています。

しかもロボット(MSというべきですが)SFという極めた娯楽作品のなかでそうした対立を教示されてきた観客としては今更実写映画でおさらいされなければいけないのか、という気持ちも沸いてしまいます。

 

とはいえ現実の日本社会でもこうなのだ、という焼き直しを観なければいけないのかもしれない、とも思いはするのですが。

つまり私的には『あのこはセイラ』と言うタイトルですでに観ていた、ということです。

 

一度挫折してしまったのはそういうところなのでしょう。

 

それでも他の日本映画作品と比較すれば争いにならないほどの品質だと思えます。テーマ、キャスティング、問題提議そして答えの出し方ラストも非常に巧いと思いました。

大声を出す場面もなく嫌な気持ちにさせるエピソードも少なく話題にする作品としてとても良いのではないでしょうか。

 

私としてはこの題材が裏テーマとして描かれている作品だったらもっと楽しめたのですが今の日本社会としては真正面から扱ったのは正解だったのかもしれません。

 

そのくらい今の日本映画が稚拙になってしまっている気もします。

マンガ・アニメ方面では非常に複雑な物語が存在しているのになぜ実写映画だとここまで子供っぽくなってしまうのか、謎です。