ガエル記

散策

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』スティーヴン・スピルバーグ

長年放置していた本作鑑賞ついにしてしまい呆然となっています。

何故早くこれを観なかったのか。

とはいえもっと早く観ていたら今日観たほどには感動していなかったかもしれません。

 

 

私はスピルバーグ苦手なところがあって嫌いというほどではないにしても『未知との遭遇』『ジョーズ』などからもそれほど好きでもなく是非観たいと思えないほうでした。(今は本当に凄いと思っていますが)

やっと最近になってから徐々にスピルバーグの面白さが認識出来てきた気がします。

『ターミナル』『ペンタゴンペーパーズ』にすっかり感心したものの本作の軽いノリ情報にまたもや気が引けていましたがアマプラで見かけて今度こそはと観てみました。

 

まさかこんな話だったとは、今打ちひしがれています。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

先日も書きましたが昨今様々なコンテンツで『家族愛』が題材として描かれています。

大昔家族の絆を理想化していた反動でそれ以降家族を描くことが極端に少なくなりました。

そして最近は「毒親」という言葉が生まれ「理想の家族なんて幻想だ。多くの子どもが親からの虐待を受けて傷ついてきた。そしてその連鎖が続く」といった内容の作品が作られ続けているように思えます。

しかし同時に実際の家族に理想を求めるのではなく自分自身で家族を作り上げようというような「疑似家族」の物語もまた生まれ始めました。

それはただの仲良し友達の物語ではない何か、です。

 

 

本作を一文で紹介するなら「天才詐欺師と騙され続けたFBI捜査官の追いかけっこ物語」とでもなるのでしょう。私はそれで観るのを躊躇していたのですが実際は「親の愛情を求めた少年と娘と別れた父親の物語」です。

主人公フランクは16歳で父親の破産と両親の離婚を経験します。両親を愛しそれまでの平凡な生活に幸福を感じていた彼には衝撃でした。

その後彼は凄まじい詐欺師の才能を発揮し僅か16歳なのに成人にふりをしてパイロット・医師・弁護士になりすまし巨万の富を手に入れるのですがその理由はただひたすら「お金持ちになって父親を楽させ他人の妻になってしまった母親を取り戻す」ためだったのでした。

詐欺をやって大金を手にしても彼が求めたのは父親に会って新車をプレゼントし喜んでもらいたいということなのです。そして母親にもその幸福を分けてあげたいと願うのです。

しかし現実には両親を喜ばせることはできませんでした。

ついに逮捕されてからも再び辛くも逃げ出し走っていった先にはクリスマスの夜暖かな家で新しい家族と微笑む母親の姿を見て彼は打ちのめされます。

彼のとんでもない詐欺はただ母の愛情を取り戻したくて行ったことなのにその果てに待っていたのは自分が入れない家族の中にいた母親でした。

その中にいる幼い少女のあどけない姿を見てフランクは自分の居場所はここにないと気づくのです。

 

この作品は実際に起こった事件から作られたものですがスピルバーグ監督はその核に「少年が求めた家族愛」という小さな夢を置きました。

一方FBI捜査官も実際の人物と書かれています。

(どこまでがそのままかはわかりませんが)捜査官もまた離婚し娘を手放した父親でした。

詐欺師を追いかける捜査官カールは騙され続け怒りをため込んでいましたがあるクリスマスの夜ひとり職場にいる彼にフランクから電話がかかってきます。フランクの皮肉な口ぶりにカールは返答します。

「お前、話し相手がいないんだろう」

その言葉は的を得ていたのでした。

 

クリスマスの夜に家族と過ごせないFBI捜査官と天才詐欺師。ふたつの孤独な魂が次第に引き寄せられていく最初です。

(日本と違ってクリスマスの夜は家族と過ごす、というアメリカならではの演出です)

 

フランクの逮捕後カールは彼をFBIで働かせ彼の身元引受人となります。

一度フランクが逃走したかに思えた時のカールの絶望と彼が戻ってきた時の安堵感は胸を打ちました。

 

その後、実際のふたりも家族同然の仲となったと記されています。

やがてフランクは家族を持ったとも。彼の夢がかなったのであれば本当に幸いです。

 

この映画ではそれほどフランクの家族愛への欲求が強く押し出されてはいませんがそこがスピルバーグの名監督ならではの味わいなのでしょう。

フランクはずっと父と母から愛されたくて結局かなわなかったのですが実は父親の代わりになる人が自分を追いかけ続けていたことに気づいたのでしょう。

FBIで働き始めたフランクが休日をもてあましカールが娘に会いに行くと聞き「そこまでおまえにかまっていられない」と突き放されたために逃走してしまうくだりはまさにそういう意味です。

カールもまたそこに気づいたはずです。

 

その後戻ってきたフランクと偽造小切手について話し合うカールとの会話はこれほど幸せそうな光景を観たことがない、と思えるものでした。

 

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

まさかこんなに涙がこみあげるような幸福な映画だとは思ってもいませんでした。

 

 

ところで本作は素晴らしいクリスマス映画です。

偶然ですがこの時期に観れて良かった。

是非今この映画観てください。