良い映画でした。
昨日の映画と同じ監督とは思えないかもしれませんが大森監督映画は訴えていることは(今まで観てきたところ)同じだと感じています。
ネタバレしますのでご注意を。
自分を従姉と比べていつもダメだと思い込んでしまう主人公は確かにぱっとせず自分で道を切り開くこともできないタイプです。
作品の題材となるお茶の教室ですら従姉に連れられてシブシブ始めたのですが次第に良さを感じていくのでした。
大森監督映画の他作品は残酷無慈悲を題材にして「それでも人間は生きていくしかないしそれで良いのだ」と描くのですが本作は極めて優しく緩やかな人間の視点で「それでも人間は生きていくしないしそれで良いのだ」と噛みしめています。
柔らかな女性の感性を描写しまったく暴力が無いように見えて実はとても残酷な作品でもあるのです。
自分の道をきっぱりと選択しつかんでいく従姉・美智子とは仲良しだけど典子にとってその比較は残酷です。もちろん「その比較」は典子自身がしているのですがそれだけに逃れられない苦悩となります。
とても不思議な映画でもあります。
一般の映画ではふたりの(もしくは別の人間とも)人生においての恋や勉強や就職の場面を描いてその比較を観客に見せつけるものですが本作ではそれらはすべて台詞での説明でしかなくほぼ描写はお茶教室か従姉妹たちの会話になっています。
女性物語のメインになるはずの恋愛場面は極力省略されていて相手男性の顔すらわかりません。
むしろ父親の姿は頻繁に映されますが当然の如く典子の成長とともに父親のかかわりは遠ざかっていくのです。
そして最も残酷な場面が。
あれほど自分を見守ってくれていた父親との最後の対面になるはずの機会を典子はつい断ってしまうのです。
お茶の先生の話もあって胸騒ぎのする典子に父が倒れたという報告が入りそのままの別れになってしまう。
私自身はこのような衝撃なものを体験せずにすみましたがすでに父とは死別していて典子の心とつながってしまったような悲しみを感じてしまいました。
でもそんなに泣きはしないのですよ。
人生はそういうものなのです。
父はせいいっぱい私を育ててくれたと感謝しています。それだけでも最高の幸福です。
そうではない人もたくさんいるのです。そんな人たちに別の幸福が訪れることを祈りたいです。
私もまたいつか後を追いかけます。
世界では考えられないほどの怖ろしいこと、悲しいことが起きていてその間にも私たちは食べて寝て笑って怠けて生きていくしかありません。
日日は残酷でありますが同時に好日でもあるのです。
どうか世界のみんなの日々が好日でありますように。
子どもたちがみな幸せになれますように。
私の時間も限られていますがその日日もまた好日であれたらと願っています。