ガエル記

散策

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』大森立嗣

こんな幸せな主人公っているのか、と思いました。

何もできず甘えてばかりで許される幸福な人間です。

昨日の『ぼっちゃん』とまったくの真逆に愛に包まれた男です。

『ぼっちゃん』の犯人は母親に虐待を受けていたと書かれていました。

本作の主人公の甘ったれた幸福感は母親から溢れる愛情を受けて成人しこの上なく優しい彼女と結ばれて育まれています。

そういう環境にいれば人はこんなに優しく素直な性格になれるのかもしれません。

ほんとに真逆な話でこの順番で観てしまったのがおかしいくらいです。

 

この映画は悲しい映画ではなく幸福な映画なのでした。

しかしこの幸福を手に入れるのはなかなか難しい。

何故ならまず「愛情深い両親」のもとに生まれなければ成立しないからです。

この作品では母親からの愛情が主に描かれますがそれには優しい父親がなければ成り立ちません。

兄弟も良い人でなければ成り立ちません。

もちろん主人公自身が良い人間性を確立してなければ成り立ちません。

幸福になるのはなかなか困難です。

大金持ちでなくてもいいけどそこそこに安定した経済生活ができてなければいけないのだけど逆に言えばそれくらいでいいとも言えます。

でもやっぱり彼女がいるからこそ幸福感を持てているともいえる。

 

それを全部得ているこの主人公、しあわせだな、と思いました。

人間はこのくらい幸福にならなければいけないけどそれがいちばん難しいことなのです。

 

海に入っていく3人の男たち。海は母だからです。

 

そして最後に主人公は母親から時を超えた贈り物をもらう。

 

これはちょっと凄すぎるでしょ。

こんなに幸福な男の話はあり得ないです。

 

この幸福をもらえなかった人は難しい人生を歩まねばならないんだね。

 

辛辣な映画でもありました。

 

しかし大森立嗣監督のテーマ(とかってに思っている)「人生はそこに在る」は本作でも同じく描かれていました。不幸な人生も幸福な人生も同じく在るのです。