これは良い映画を観てしまいました。選択してよかった。
ネタバレしますのでご注意を。
19世紀後半のイギリス。17歳のキャサリンは富裕な商家に嫁ぐことになる。
そこには花嫁に触れることもしないが横暴で冷酷な夫と厳格で無慈悲な義父がいた。
夫は家に寄り付かずキャサリンは放置されたままだが外出は禁じられ義父からは夫に従属しろと命じられるのみ。
主人から彼女の監視を命じられている使用人のアナとも上手く関係がつなげない。
そのアナをレイプしようとしていた馬丁のセバスチャンから迫られたことを機にキャサリンは彼に夢中になってしまう。
夫の不在の中で彼女は義父を毒殺しさらに帰宅して彼女の不倫をなじる夫を撲殺する。
『レディ・マクベス』=マクベス夫人というのは良いタイトルですね。本作では夫ではなく不倫相手が気弱なマクベスです。彼は気弱ゆえに彼女に見捨てられてしまいます。
家父長制に縛り付けられ活力を失っていたキャサリンが義父と夫に反抗しセバスチャンと肉体関係を持ってからは元気になり食欲が出て肥え太っていくのが面白い。
一旦女主人になって安心したのも束の間、殺害した夫の正当な後継者である「息子」テディを連れた女が現れる。キャサリンに触れもしなかった夫は外で愛人をかこっていたのだった。
しかもこの時彼女は自分が妊娠していることを知る。テディの出現は自分にとってもお腹の子どもにとっても有害でしかない。
ここで気弱だった男セバスチャンがテディに手をかける。とどめをさせないまま彼はテディを連れ帰りキャサリンが最期の始末を終える。
罪の意識に苛まれたセバスチャンは彼女を殺人者として訴えるがキャサリンは逆にセバスチャンとアナにすべての罪をかぶせてしまう。
ラスト、一人きりになって椅子に座るキャサリンをカメラがとらえる。
(笑うのかな)と思いましたがそんな軽はずみはしませんでしたね。
彼女はついに自由の身となり女主人になったのですがその道はどこまでも険しいものでしょう。
生まれてくる子どもは夫の血ではなくともやがて後継者となるのでしょうがマクベス夫人たるキャサリンがどのような権力を使っていくのか、その様子も観たくもあり怖くもあります。
キャサリンを演じたフローレンス・ピューが素晴らしい。後に『ミッドサマー』で名をはせる彼女ですが初の主演ですでに凄まじい印象を与えていたのですね。
家父長制に抗う女性たちを描いた作品は数多くありますがここまで颯爽と女性の自立と困難を表現したものはないように思えました。
いわゆるメタファーでもあると言えます。つまり父(義父)を殺し夫を殺し愛人の男とその愛人を殺し自分の子どもの敵を殺さねばならないと。
そしてその覚悟はその先にも続くのだと。
自由になりたいと願うならその対価も支払わねばならないのです。