ガエル記

散策

『黒い画集 ある遭難』杉江敏男

松本清張原作なので観たかった作品です。

正直言って名作映画ではないのでしょうけどミステリー映画として楽しめました。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

少し前に山岳もの登山ものを鑑賞したいと思いながら結局これと言うものに当たらないまま終わったのですが私はどうやら単なる山岳ものではなくこういうのを期待してたのだと気づきました。単なる登山ものではなくミステリーが欲しかったのです。

 

現在ならもっと映像に様々な技術が使われるでしょうがモノクロの地道な撮影がむしろ心地よくもあります。

 

本作でまたひとつ興味深い知識を得ました。「プロバビリティーの犯罪」というものです。

これは直接手を下さずに死へと導く犯罪手法とのこと。いわば「偶然を装う」ものなので絶対目的を果たせるわけではないが死へと追い込んでいくわけです。

例えば目的の人物が必ず歩く階段の上にビー玉を置いておけば足を滑らせてしまうだろう、というものですね。これを江戸川乱歩氏が説明していますがこれを読むと真っ先に思い出すのはレイ・ブラッドベリだったりします。

 

とにかくこの「プロバビリティーの犯罪」を使った巧妙なミステリーでした。

とはいえこの作品の面白さはそれだけではないと思えます。

 

映画はおおまかにふたつに分かれています。

江田・浦橋・岩瀬と言う三人の男がかなり高難度の登山をする前半パートと同じコースを江田・槇田というふたりの男が辿る後半パートです。

そしてその間に岩瀬の姉が登場して登山好きな弟が死に初体験だった浦橋氏が生き残ったのは何故なのだろう、という疑問を持つことでつながっていきます。

 

登山巧者の江田氏、初体験の浦橋、江田氏ほどではないが登山好きの岩瀬というチームが和気あいあいと登山計画を立てていく。

ところがいざ登山が始まるとあれほど意気揚々だった岩瀬秀雄は激しい疲労を訴え何度も休憩を求め大量の水を補給するのだ。

その様子を浦橋氏が訝し気に観ており江田氏はクールな態度ながら岩瀬氏に思いやりのある助け舟を出す。

それにもかかわらず岩瀬秀雄は精神に変調をきたして崖から落ちて死亡するのだ。

 

前述したとおり秀雄の姉はこの事故に疑問を持ち登山歴のある従兄弟・槇田に弟の事故を解明するため現場を観てきてほしいと願い出る。

槇田も従兄弟の突然死に疑問を持っており事故の同行者だった江田氏に道案内を頼むのだ。

 

後半パートの江田氏の挙動と彼を追い詰めていく槇田の言動が見ものでした。

このサスペンスが真骨頂なのでラストのあっけなさはむしろさっぱりとしてよかった気がします。この頃の作品はこうしたあっさりしたラストが流行りだったのか多いような気がします。

ここでも香川京子さんはぴしっと締めてくれています。

 

予想以上に面白い映画でした。

ややチープな感は否めませんがむしろこういう映画作品を求めていたようにも感じています。

それもやはり松本清張原作だからこその面白さかもしれませんね。