ねたばれします。
ここで登場するのが木牛流馬。
以前火を吐く木獣がすでに活躍したから驚くことはないだろうがこの時代にこうしたからくり道具が登場するのが三国志の面白さのひとつでもある。
上方谷もしくは葫蘆谷と呼ばれる場所を見つけた孔明はそこを秘密の作業場として木牛流馬の作製にとりかかり馬岱をその見張りとした。
折しも蜀本国から運輸されてきた兵糧は剣閣で山と積まれているのに道が悪く牛馬も倒れ車も壊れ輸送が捗らないという事態に担当者は困り果てていた。
これを訴えられた孔明は「ふふふ」と笑い葫蘆谷へと彼を導いたのである。
何度読んでも笑ってしまう。
いったいこの非常時に何をやっとんじゃ、というところだろう。
しかしこの場面、『バビル二世』でヨミ様が新兵器を作ってる場面を思わせてますます笑ってしまう。
笑い死ぬ。
この報告を受けた司馬懿は目論見が崩れ「木牛流馬を奪ってこい」と命じる。
一目見て気に入った司馬懿はそっくり同じものを造らせたのである。
ここでよくわからない事態になる。
そっくりに造った木牛流馬で魏軍も真似して兵糧輸送を始めたのだがこれをチャンスと孔明は襲わせ木牛流馬の舌を左へ動かしてストッパーをかけてしまうと魏軍兵士がどんなに力を込めても動かない。
そしてわざとザンバラ髪の魔神に扮して再度襲い動かなくなった木牛流馬の舌を動かしてするすると運び始めれば魏軍はやはり魔神の魔力だと恐れ怯えて逃げ出してしまう。
っていくらそっくりに造ったからと言ってカラクリまで同じに造っておきながらその理屈がわからない、ってありうるのかな。
将たる郭淮は魔神の行動を不審に思い兵士たちをどやしつけるが迷信深い兵士たちは怯えるばかり。そこへ魏延・姜維軍が襲い掛かり魏軍は夥しい犠牲者を出してしまう。
報を受けた司馬懿は救援に駆け付ける。
まさに千載一遇の機会である。
ただひとり逃げる司馬懿をここで廖化が討ちとることができたなら蜀の運命は変わっていただろう。
しかしここで孔明が置いた駒が廖化であったことがすべてだったかもしれない。
分かれ道に差し掛かった司馬懿はかぶっていた冠を捨てそれと反対方向へと逃げる。
追いかけてきた廖化はそのまま冠の落ちていた道を辿った。むろん司馬懿はおらずそのまま帰ってきたのを孔明は第一の功として労ったのだ。
だが心の内では「もし関羽であれば司馬懿の機智を見破ったであろう」と魏や呉を羨ましく思うのである。
だがそれが廖化ではなく姜維もしくは魏延でも違っていたかもしれない。
まあどちらにしても例え孔明でも完全としか言いようがない。
さて洛陽では魏帝・曹叡と重臣たちが「呉が三路から北上し始めた」という報を受け魏の一大事に騒然となっていた。
満寵は呉の船団を見てその壮観さに驚く。
しかし曹叡は「呉は長い間戦争から離れたるみ切っている」と判断しいきなり夜襲をかけ放火で呉軍に莫大な損害を与える。
初戦の大敗は呉にとって衝撃だった。
が、呉にとってこの戦は蜀に求められてやむなく動き始めたものにすぎない。
陸遜はあえて攻撃すると見せかけ三路の兵馬を呉に引きあげさせたのである。
見事な駆け引きであった。
さて孔明と司馬懿は双方とも長期のにらみ合いで将兵たちの間に不満が噴出していた。
魏軍でも司馬懿が孔明を怖れているという悪口がはびこり、蜀軍では魏延が孔明は臆病だと皆に言いふらしていた。
「そちを信じ、この秘密の設計を任せる」
この言葉に喜んだ馬岱は勇んで向かった。
それから数か月後、孔明は魏延を呼び五百の兵で魏軍に向かい合戦を挑め、と命じた。これはあくまでも司馬懿をおび寄せるためのものだ、と。
そして葫蘆谷へ誘い込めと言うと魏延は「勝算はござりまするのですな」とたたみかけた。
孔明が「ある」と答えると「ならば見事おびき寄せましょう」と魏延は立ち去った。
魏延の態度には不信がありありと出ている。
魏軍でも長い間ただ睨み合うばかりの状態に不満がつのっていた。
司馬懿はやむなく将達に出陣を許すとおもしろいように蜀軍を襲っては戦果を勝ち取るようになった。
魏の将兵たちは蜀軍の弱体化を感じ今こそ総攻撃をかければ蜀兵は一掃できると司馬懿に進言した。
数日後またも蜀兵の捕虜が司馬懿の前に送られてきた。
躊躇った後その男は葫蘆谷の西方十里の地点で城塞を作り数年間戦えるだけの食糧を運び込んでいます、と答えた。
この言葉に魏将たちは司馬懿に詰め寄る。「その城塞が完成する前に叩くべきです」
司馬懿もまた「よし。総攻撃の命令を全軍に伝えよ」と命じた。
司馬懿はまずあえて祁山を攻め自らは葫蘆谷へ走ったのだ。
葫蘆谷の警備軍はわずかだった。
魏の大軍はこれを蹴散らすが魏延がこれを待ち構えていた。
魏延は大軍相手に戦うがやむなく多勢に無勢と逃げ出した。
司馬懿は追いかける。
そこにはおびただしい食糧・武器がある陣が作られていた。
司馬懿は満足そうにことごとく焼き払えと命じる。
が、司馬懿は離れた場所に魏延が立ってこちらを見ているのに気づきはっとする。
見れば倉庫周囲に柴が積まれている。おかしい、火の気は厳禁のはず。
司馬懿は突然「引けっ引けっ」と叫んだ。
しかし後方から兵士たちがなだれ込んできており司馬懿らは身動きできない。
すると周囲を囲む崖に火の手があがっているではないか。
と、突如爆音があがり岩石が行く手を阻んだ。
司馬懿たちは葫蘆谷に閉じ込められてしまったのだ。
あちこちに火が走り魏兵は火に包まれた。
一方魏延もまた入り口をふさがれ逃げられなくなってしまっていた。
「そうか、孔明め。日頃のわしの行為を根に持ち司馬懿とともにわしを消そうとたくらんだな」
司馬懿父子はもはや火の中から逃げられないと諦めがあった。
ところがそこに雨雲が生じてきたのだ。
激しい雨が降り葫蘆谷の火を消した。
司馬懿はまたも命を長らえたのだ。
孔明はこの報を聞いた。