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散策

『史記』横山光輝 ④ 再読  第2話「鬼謀奇策」

昨日楽毅に攻められた斉側のお話です。

 

 

ネタバレします。

 

 

斉の湣王による強引な領土拡大に反発した燕・趙・魏・韓・楚による連合軍は斉水の西で斉軍を撃破した。

超・魏・韓・楚はその大勝利で満足し引き上げたが斉に深い恨みを持つ燕は斉を滅亡させるためにさらに進撃を続けた。

 

斉の湣王は首都から逃亡し南方の莒城に立てこもって軍を再編し反撃を開始するつもりであった。

将兵たちも家族を連れて各地へ逃亡。斉には七十余の城があった。

下役人の田単は一族を連れて都の東の安平へ逃れた。

 

安平城に到着した田単は一族の者たちに馬車の車軸を補強するよう伝える。

いずれ燕軍がここも攻め落とした時無事脱出するために馬車を補強しておくよう言い含めたのである。

皆は湣王を信じ切っていたが田単は楽毅将軍の強さを説いたので渋々ながらも車軸を補強した。

 

案の定燕軍は破竹の勢いで攻め寄せてきた。安平城はあっという間に落とされ人々は逃げ出すしかなかった。だが荒野では車軸の折れる馬車が続出しその人々はすべて燕軍の捕虜となった。

だが田単たちの馬車は車軸を補強していたおかげで目指す即墨城までたどり着けた。

燕軍の猛進撃はさらに続く。

楽毅は半年で七十余城を落とした。

残ったのは田単が逃げ込んだ即墨城と湣王が立てこもった莒上だけとなった。

湣王が莒城にいると知った燕軍は莒城へ迫った。

 

莒城は斉の存亡をかけて宰相の淖歯が必死に防戦した。夜襲・奇襲・ゲリラ戦を駆使して数年間持ちこたえた。

ここで楽毅将軍は部下を斉兵に化けさせ中に入りこませて宰相淖歯に直接和議を申し込んだ。成立すれば莒の領土を宰相のものとし財宝も半分に分けるという条件である。

宰相淖歯はこの条件は悪くないと感じ討死の覚悟をしている湣王を殺害して和議の準備をしたのである。

ところがこれに反発したのが莒の住民である。「どさくさに紛れ王を殺して自分が王になろうとは許せねえ」

怒った領民は淖歯を殺害したのだった。

そして湣王の子・法章が即位した。斉の襄王である。

襄王は民の前で演説した。

「我が斉は太公望の後、田一族が後を継ぎ天下に覇を唱える大国となった。その斉が燕のような相国に滅ぼされたとあっては先祖に申し訳がたたない。女子どもも誇りを持って戦え」

 

楽毅将軍はこの様子を聞き湣王が死んだことで我が昭王様の恨みの一つは果たせたとして軍を引き即墨へと移ったのである。

このように死に物狂いになっている敵相手では我が軍の被害が大きくなるという考えであった。

 

この報は即墨城にただちに届き燕軍を迎え撃たんと出陣した。

だが戦術に長けた楽毅は即墨軍を撃破する。

将軍をはじめ主だった武将を失った即墨城では降伏しかないのかと話し合った。

ここでひとりが「田単という下役人がいる」と言い出した。

安平城から逃げ出す際に車軸を補強させた知恵だけでなく兵法にも通じていると説明し田単を将軍として少しでも燕軍を苦しめられればという結論になった。

 

下役人だった田単はいきなり将軍となって楽毅将軍と戦うこと、それ以上に味方が従ってくれるかどうかという不安があった。

ところがここで燕の昭王の死が報じられた。後継者は太子、恵王と名乗った。

これを聞いた田単は面白いことになったとほくそ笑んだ。

その恵王は太子時代から楽毅とそりが合わなかったという噂を聞き及んでいたのだ。田単に一条の光明が見えた。

楽毅さえいなければ何とかなる。恵王と楽毅の仲の悪さを利用しない手はない。

田単将軍はすぐに間者を集め噂をばらまかせた。

 

それがあの「楽毅がいつまで経っても斉の二城を落とせないのは裏があるらしい」

「実は楽毅将軍は二城を落としたら斉王になるつもりで斉の人心掌握に躍起なのだ」

楽毅が今一番恐れているのは新しい将軍が来て攻撃をかければ二城があっという間に落ちてしまうことだ」

楽毅将軍は昔から恵王様とそりが合わなかった。燕に帰るつもりはないのかもしれない」という噂である。

 

この噂を聞いた恵王はもともと楽毅が嫌いだったためすっかり信じ切ってしまい楽毅の帰国を求めた。

誅殺を怖れた楽毅は趙へと亡命したのだった。

 

楽毅が去り別の将軍が来たと知った田単はさらに指示を出す。

「食事のたびに庭で先祖の霊を祭らせよ」

成り上がりの将軍の命令に訝しみながらも人々はその命令に従った。

 

とたんに即墨城の上空に鳥が集まり出したのである。

鳥たちは供え物を狙って集まってきたのだ。

そして次々と城内に舞い降りた。迷信が強い時代である。

遠くで観ている燕軍には薄気味悪い光景だった。

 

再び田単は噂を流す。

「これは神が斉を助けるために天下ってくる前兆だそうな」

「誰かの体に乗り移って作戦を教えてくれるそうだ」

田単は皆の者に「神が軍師となってくれるであろう。そうなれば必ず勝てる」と言い渡した。

すると一人の兵士がふざけて「そういえばオレなにかが乗り移ったようなんだ。とすると俺は軍師ってことですか」とにやけた。

田単はその兵士を呼び寄せひれ伏したのである。「これからの作戦は神のお告げである」

田単は次々と作戦を編み出して実行させていった。

 

そして降伏の使者を出して五日間の猶予を約束させた。

遠征で疲れ果てていた燕軍の兵士たちは喜んだ。

即墨城にはもう食料もつきかけていたが田単は最期の決戦と判断し残りを兵士に食べさせた。

城内にいる牛の角に剣を縛りつけ尾に葦の束をくくりつけ火をつけてはなったのだ。

牛は燕陣目掛け暴走した。燕陣は火の海と化し牛の角に縛りつけられた剣は燕兵らを殺した。

牛の後に続いた即墨兵燕軍に襲い掛かり代理の将軍は討ち取られた。

 

燕軍は燕に帰順した城に逃げ込もうとしたが次々と反旗を翻し田単軍に加わってしまった。燕軍は敗走に敗走を重ね自国へと逃げ帰ったのである。

楽毅将軍が亡命して数か月の出来事であった。

 

斉はすべての城を取り戻し襄王は莒から首都へ戻ることができた。

襄王は田単の功に対して感謝し安平君とした。

 

斉はひとりの下役人の心理作戦で滅亡を免れたのである。

史記には才能がありながら報われない話が多い。

史記を記した司馬遷はそれを怒り「天の力は微なり」といった。

この話は数少ない成功例のひとつである。

 

創作作品だと正義と悪、敵と味方、この国が良い国でこっちの国は嫌な国、となって物語もそれに応じて決着するが歴史では父と子で人格が逆だったりして国対国ではないのだ。そしてほんとに勝負に時間がかかる。

現実を観ていてもやはりそうなのだよなあ。

戦争はいつのまにか始まるけどなかなか終わらない。