萩尾望都のデビュー作『ルルとミミ』です。
1969年「なかよし」夏休み増刊号掲載。巻末に1969年2月と記されています。
私は『ポーの一族』が出会いの作品でしたのでこの作品は後で読みました。
ネタバレします。
デビュー作は作者が映し出されているという。
その言葉が正確なのかはわからないが本作を観れば確かにと思える。
萩尾作品で感じるのはその本質的な明るさとどこかあきらめの境地にいることだ。
私が現在も読み続けている「少女マンガ」作家は萩尾望都と山岸凉子なのだけど山岸氏の居座る暗さと粘着的な描写に比べ萩尾氏はその真逆にあると思う。
両極にありながらどちらも私にとって必要な作者なのである。
本作『ルルとミミ』の凄さはなんといってもテンポの良さだ。それがすべてを救っている。
というのは、本作の題材は「ケーキ作り」でいかにも女子が好みそうなものだけどその展開はやや男子的なアクションものになっていき少女が読みたい内容であるかなという不安もあったりするからだ。
「キーロックス」という間抜けな強盗団の出現という少女マンガにしてはいささか色気も華やかさもない筋立てになる。
さて双子の少女のママは料理が得意でケーキ作りも名人だ。
今回もすてきなケーキを焼き上げたけどそれは教会で行われるケーキのコンクールに出すのだという。
それを聞いた双子のルルとミミは自分たちも「最高に素敵なケーキを作る」と意気込む。いくつもケーキを作り上げるがそのどれもが失敗作。
しかし双子はそれにめげずそれらケーキを出品することにした。
やや退屈しそうな経過を萩尾の技量が読ませてしまう、という感じである。
それになんといっても絵が上手い。
これも「少女マンガ」にしてはあまりピカつきやちゃらつきが少ないあっさりした描線で可愛いんだけどしっとり感がないのだがそれが気にならないほどマンガ力が圧倒的なのだ。
冒頭最初のコマの双子が住む家の描き方からしてすでに「巧い」のがわかる。
カメラは正面からお洒落な家の前を新聞配達の少年(らしき)が新聞を放り込んでいるのを捕らえる。(カメラというのは作者萩尾の脳内だ)
二階の窓を開けてあくびをしているミミが描かれている。
無駄がない!
カメラが屋内に移りまだ眠そうなベッドのルル越しに元気なミミが「ふーん、いいにおい、ママがお得意のナッツケーキを焼いてるな」という。
説明をぽんぽんとさりげなくやっていく。デビュー作にしてこの巧さはなんだろう。
ケーキと聞いて「起きるっ」となったルル。
そして次のコマで二人が双子だという説明。
さっき放り込まれた新聞をベランダで読んでいるパパ。
「まんがみせて」というミミ。これも後で使われる布石である。(うますぎだ)
こうして教会のコンクールに双子が初挑戦のケーキを出したところ、「キーロックス」という強盗団がコンクール審査員と間違われて迎えられそこへ本物のキーロックス氏が登場して大騒ぎとなる、という往年の手塚治虫氏を思わせるドタバタモブシーンが描かれる。
そして双子が作ったケーキに牧師さんがさわったところ大爆発を起こしてしまい更なる大騒ぎのケーキ合戦となるというアクションマンガなのである。
オチはおちゃめな双子がケーキ作りはあきらめて仲良くマンガを読む、でおしまい。
なんとも微笑ましく楽しいマンガなのだ。
この大爆破というのはあの名作『11人いる!』でも使われている。
つまりデビュー作は作者を現すである。
本作ではあまり感じられないがパパとママが双子に深く関係していないのも萩尾マンガのその後を思わせる。
本作から受ける影響源はやはり手塚治虫だろうがテンポよい進行に横山光輝も感じさせる。