1971年「なかよし」4月号(1971年3月)
今頃気づいたのですがこの1971年に萩尾望都は怒涛の如く作品出しています。その数が信じられないほど。
もしかしたら全部この年に描いたのではなくて出せなかったのがこの年に出された、あの「名編集者山本順也氏に買い取ってもらった」ことでのこの数なのかもしれません。
短編作品とは言え数えたら19作品あります。
その全部が名作と呼ばれるものという狂気的!!
今頃気づいてどうするんだなのですが。
そして本作もまた間違いなく名作です。
ネタバレします。
ふたりの人間の魂が入れ替わる、というのは近年『きみの名は』で騒がれたけど本作はその走りと言うべきか。
『君の名は』の元は『転校生』でその原作は『おれがあいつであいつがおれで』なのだがそれも1979年発表のものだから本作はそれより8年も前の作品である。
むろんあちらは男女が入れ替わるというのがミソで異性の身体を持つことになる興奮なのだが本作も「勉強ばかりのカタブツ少女が奔放なおばあちゃんによってプレイガールに変身してしまう」というこちらもこちらでかなりヤバい話である。
たぶん本作はゲーテ『ファウスト』からの発想だろうか。おばあちゃんが少女になるのだが。
しかし魂が入れ替わる、という発想が加わる。なにかのSFからなのか。
アリスおばあちゃんは17歳の高校生ジェニファと二人暮らし。ジェニファが勉強ばかりでボーイフレンドも面白みのないがり勉君なのをおばあちゃんは残念がっている(ここ。今ならBFいるだけでカタブツじゃないと言われそうだが)
アリスおばあちゃんは自分が今17歳なら思い切りおしゃれして遊ぶのにと悔しがっている。
そんなおばあちゃんは独身なのである。なぜか一度も男と付き合うチャンスがなかったのだという(ん?おばあちゃんが独身ならどうやって孫ができたのか。いや結婚制度にこだわるわけじゃないがここで話しているのは男と付き合ったことがない、というのだ???たぶん「おばあちゃん」と呼んでいるが年の離れた伯母なのだろうと勝手に納得する。それなら理屈が通る)
ジェニファが登校した後、アリスおばあちゃんに死神が訪れる。
驚きながらも「寿命が来たんだね」と覚悟を決めるおばあちゃんに死神は「それが手違いであなたの死はほんとうは来年なのにミスのしわ寄せがきて今年になってしまったのです」という。
「あんまりじゃないか」というおばあちゃんに死神は「それでせめてあなたの最期の望みをかなえて差し上げようと伺ったのです。あなたに残された時間はあと13日。さあどんなものをお望みですか。世界一周旅行?」と言い出した。
おばあちゃんは「恋をしたいわ。若い娘に戻って」と即答。
死神は「簡単です。若い娘と魂を入れ替えればいいのだから。誰にします?」
これにもおばあちゃんは「ジェニファがいいわ」と即答したのだった。
こうして翌朝から入れ替わったおばあちゃんとジェニファ。
若い娘の身体を手に入れたおばあちゃんは今までジェニファがやってこなかったお洒落をし登校する。
そして学校中の男の子たちを魅了しプレイボーイのロンリーまで夢中にさせてしまうのだ。
泣いて嫌がるジェニファをよそに外見ジェニファの内面おばあちゃんは思う存分青春を楽しむのであった。
そしてプレイボーイのロンリーはそんなジェニファに本気になっていく。
「でも」とロンリーは言う。「以前のきみと試験でトップを争うのも楽しみだったんだけどね」
なんとロンリーはがり勉ジェニファにも心惹かれていたのだ。
ロンリーは「ぼくの負けだ。本気になってしまった」とジェニファにキスをする。
その寸前におばあちゃんはジェニファの魂と入れ替わってしまう。まだあと二日の時間があったはずなのに。
がり勉ジェニファは魂を入れ替えるクスリを作り出してしまったのだ。
おばあちゃんは元に戻って死神と共に死へと旅立った。
なんという楽しさ。
死んでしまうという悲しい結末にもかかわらず最期に思う存分暴れまわったアリスおばあちゃん。
「私だって男の子とキスがしたいわ」と根性で入れ替わりの薬を発明してしまうジェニファ。
魂と頭脳は直結しているのかなあ。
いろいろ疑問はあれど刺激的な一作である。
元に戻った