ガエル記

散策

精霊シリーズ『精霊狩り』『ドアの中の私の息子』『みんなでお茶を』 萩尾望都

1971年「別冊少女コミック7月号(1971年5月)

この楽しさはなんなのか。

どうしてこのマンガが別メディア化アニメでも実写でもされていないのか。

されたらされたで苦情を言うでしょうがw

あまりにも勿体ない。

 

 

ネタバレします。

 

 

こうしてまとめて見直していくと色々と見えてくる。

(気づく人はすぐ気づくことだろうけど)

萩尾ヒロインは時に性に奔放で恋多き女性が選ばれる。

萩尾ヒロインといえばどうしても『スター・レッド』のセイがまず選ばれるだろうしセイはそんな感じじゃないのでイメージ湧かないのかもしれないが。

ここまでのヒロインも特に『花嫁をひろった男』のキャンディ、『ジェニファの恋のお相手は』のジェニファの身体を乗っ取ったアリス、後では『王妃マルゴ』のマルゴなどがそうだけど本作『精霊狩り』のダーナにおいてはダーナだけでなく精霊そのものが「惚れっぽい」というのが特徴なのだと設定されている。

想像するに少女マンガを読んでいるような日本男性は清純な女性を求めがちな気がするけれどダーナのようなキャラクターはどう受け止められているのだろうか。

 

さて精霊といっても中世ファンタジー世界ではなく逆に未来、第三次世界大戦後、歴史がすべて失われ生活水準は逆行している。

その社会の中に「精霊」と称されている超能力者たちが存在しているのだが彼らはそうではない一般人らに忌み嫌われ捕獲され死刑となる運命なのだ。

 

冒頭、精霊仲間の女の子リッピはダーナとカチュカの家を訪れる。

この描き方からももう物語に引き込まれてしまうではないか。

その日は「精霊狩り」の日。リッピはダーナに「注意するよう」やってきたのだがとうのダーナはすでに屋根に上り精霊狩りの連中をからかってやろうと飛び出していくのだった。

その精霊狩りの中にハンサムな青年リールを見つけたダーナは早速こなをかける。

屋根の上を跳ぶダーナをひと目見てすぐに心奪われたリールはダーナに言い寄られて恋に落ちてしまうのである。

だがダーナは精霊狩りたちによって捕獲され投獄されてしまった。

 

動物の体に乗り移ることができるリッピはネズミに乗り移ってダーナに会いに行くがどっちにしても外へ出た時に逃げるしかできないわねということになる。

(のんきなんだよ)

かくして裁判が始まるが大騒ぎになって終わる。

ダーナは「千三百一番目の精霊」として永久冬眠のカプセルに入れられるのである。

ところがそれらは全部カラなのだと死刑執行人は言うのだ。

「どうして?」と問うダーナの前に壁を通り抜けたカチュカが銃を持って助けにきた。

「こんな風に必ずお仲間が助けにきたのさ」

 

萩尾氏らしい楽天的な終わり方、最高。

 

ところでリールは?

実はダーナたちはまったく年を取らず長生きする、という能力も持っている。ダーナの年齢は88歳でこれまで七人の夫をもっていた。

これを知ったリールは「いくら何でも70歳も年上の女性なんて」と逃げだす。

怒ったダーナたちはリールを外へ追い出して「次の精霊狩りの季節が楽しみだわ」と復讐を誓う(?)のであった。

 

 

1972年「少女コミック」4月号(1972年2月)


1年後『精霊シリーズ』第二弾

 

ネタバレします。

冒頭、女学生になっているダーナが妊娠したということがわかり退学になってしまう。

寄宿学校から帰る列車の中でダーナはハンサムな男性に出会いポーっとなるがなんと彼は子持ちだった。

「私も子持ちか」とつぶやくダーナ

 

家に帰るとカチュカが仲間を集めて帰宅を喜んでくれた。

しかし精霊仲間はダーナが「妊娠したの」というのを聞いて大笑い。「私たちは木の股から生まれてくるのよ」と信じないのだ。

ところが透視ができるブブによってダーナのお腹に男の子がいると確認された。

リッピは「あんたは精霊じゃないわ」と言い出しダーナを問い詰める。

が、カチュカがダーナをテレポートさせて逃がしてしまい自分自身も後を追った。

 

カチュカはダーナをティペント・ナンセンス博士の家に連れて行き相談をする。

ところがあのハンサムな子連れ男が博士の家にいたのである。

名はイカルス。娘の名はチャシー。

ふたりもまた精霊であった。

 

ナンセンス博士はダーナの妊娠を知っても驚かない。それどころか「前哨戦かもしれんなあ」とつぶやく。

「わしら人類ホモサピエンスの時代は終わって、新人類ホモスペリオール時代の幕開けかもしれんな」

これを盗み聞きしていた精霊たちは突然前言撤回でダーナを祝福する。「特別特等精霊財産にするわ」とダーナを大事にし始めるのであった。

しかしダーナの子どもの父親が誰かわからない、と騒ぐ場面で「ぼくがなってもいいぜ」と言ったのがイカルスだった。

ダーナイカルス(とチャシー)と仲を深めていく。

ところが雨の中階段を上っていたダーナは足を滑らしてしまう。

慌てて抱き起すイカルスにダーナは「ベビーがどこかにいっちゃった」と訴えた。

さあどうなる。

これもまた良いラスト。

 

ベビーは自分の力で飛び出したのである。

 

1974年「少女コミック」4月号(1974年2月)

さらに2年後『精霊シリーズ』

ますます洗練されていく。

 

ネタバレします。

 

ダーナイカルス、そして娘のチャシーと息子ルトルの幸福で騒がしい生活が続いていた。

カチュカはテレパシーでダーナ達を月祭りに招待する。

 

しかしチャシーのいたずらはますます過激化していきダーナは精霊狩りを怖れるがチャシーは大騒ぎしダーナはチャシーを𠮟りつける。

カチュカのうっかりでチャシーはダーナの子ではないと知りほんとうの「母をたずねて」家を出る。

ダーナ達はチャシーを見つけ出すがそこでも精霊狩りをされ逃げることになる。

海岸べりに逃げるダーナ達。

向こう岸までチャシーはテレポートでイカルスは息継ぎなしで泳ぎダーナはルトルを抱いて岩伝いに跳ぶことにした。

ちょうど潮が引きダーナは難なく岩から岩へと跳ぶことができた。

だが振り返ると潮は満ちていた。

 

大団円。

無事にカチュカたちと再会しみんなでお茶を楽しむ。

チャシーは「なぜ精霊は狩られるの」とダーナに訊く。

ダーナは「ただの時代の風習なのよ。異質なるものは常に迫害されるの」と答える。

これもまた萩尾作品の本筋のテーマなのだ。