1971年「少女コミック」29号(1969年5月)
これまでの作品群でも際立ってサスペンス映画の雰囲気を持っていると思います。
ネタバレします。
それはこの1ページ目からすでに感じられる。
嵐の夜更けモードリンは雨と風の音に怯えママの部屋へ行こうとする。
戸を開け廊下を進むと階段を上がってくる男の姿を見る。
「クレー爺やが戸締りをしているのかな」と思ったモードリンだったがそれがママの弟のウィルおじさんだと気づく。
「階段の下ばかり見てた。なにかあるのかしら」とモードリンが覗き込むと階段の下にクレー爺やが倒れていた。
手には腕時計を握っていた。ウィルおじさんのものだった。
その時、大きな振り子時計が時を知らせた。
モードリンは11歳の女の子だがハンサムなウィルおじさんを密かに慕っていた。
そのおじさんがクレー爺やを殺した。
その秘密は私だけが知っている。
モードリンは大好きなおじさんの誰にも明かせない弱みを握っていることに喜びを感じていた。
サスペンスの中でもよりホラーに近いほどの恐怖を感じさせる。
萩尾望都氏は好きなマンガ家、影響を受けたマンガ家に楳図かずお氏を挙げているのを見かけたこと聞いたことはないが私は強い影響があるのではないかと思っている。
今回の読書ではその片鱗を見つけたいと思っていたのだけど本作にははっきりと見えてきたようだ。
例えば次の場面だろうか。
右上のモードリンの顔。
そして下段中から左へのコマの運び方。
恐怖と秘密の心理描写。
そして全体に感じる黒ベタの使い方である。
モードリンの心理。
ハンサムなおじさんの気を引きたくて殺人事件を隠匿。
しかしまだ少女の心は弱く大好きなおじさんがクレー爺やを殺した場面を想像して動揺する。
めちゃくちゃエロチックな場面ではないか。
モードリンはこの時エクスタシーを感じたのだ。
モードリンの家に客がやってくる。
パパの友人で作家のブライス氏である。
ブライス氏はクレー爺やの死と共に大きな振り子時計が止まったという話を聞いて興味を持ちその時計を調べるのだ。
大時計が傾いていると気づき「傾いていては振り子が動かないのは当然だ」といって自ら時計の扉を開き振り子を動かす。
と、その時大時計の中に腕時計が落ちていたのを見つけたのだ。
その腕時計はウィルのものであった。
この後、モードリンは誰もいない(とおじさんと彼女は思い込んでいる)屋敷のなかでウィルおじさんと二人きりで過ごす。
この場面はもう完全にエロそのものだ。
ウィルおじさんはすでにモードリンが殺人現場を見てしまい自分がその時取られた腕時計を柱時計の中に隠したのだと勘付いていた。
ウィルは小さなモードリンの頭を押さえつけ暖炉の中に突っ込もうとしたがモードリンが掴んだ火かき棒が手に当たり放してしまう。
そのすきにモードリンは逃げ出したが柱時計の前でつまづき倒れたところをウィルおじさんにつかまり火かき棒で殴られそうになる。
そこで大声を上げたのが折りしも客となっていたブライス氏だった。
大時計がウィルおじさんの頭上に落下した。
ブライス氏はモードリンを抱きしめる。
モードリンは秘密をブライス氏に話す。ブライス氏はモードリンを慰めた。
「悪い夢だったんだ。忘れなさい。いい子だ、モードリン」
泣き続けるモードリン。
さて。
果たしてモードリンは〝いい子”なのでしょうか。
私はモードリンは絶対魔性を持っていると睨んでいます。
殺人鬼ともいえるウィルおじさんことウィリアム・ウィルソンの姪っ子である彼女にもそのDNAがあるはず。
彼女がもう少し年かさならほんとうにこの秘密をもってウィルおじさんを脅したかもしれません。
最後、モードリンは突然11歳の少女になって泣き出しブライス氏に「か弱い少女」である様子を見せましたがこれはモードリンが魔性である証とも言えます。
結局彼女はいたいけな子供の悪戯として許されるでしょうがモードリンの魔性は成長するに違いありません。
殺人を見て興奮してしまう、凶器を隠して秘密を握る、美貌の男性が殺人を犯しても愛情が揺るがないどころかより好きになってしまう。
モードリンは大人になればもっと美しい女性となって男性を惹きつけそうですしブライス氏が最初から彼女に惹かれている様子、とんでもない隠し事を知っても「かわいそうに」と思わせてしまう魅力を持っているのです。
女性版トム・リプリーになりそうな予感がします。