1973年「別冊少女コミック」4~7月号
ネタバレします。
『ポーの一族』三部作の最後の作品とされる。
「グレンスミスの日記」の冒頭およびラストシーンがこの物語の中にある。
『ポーの一族』の真骨頂と言えば本編ではないでしょうか。
すでに吸血(噛みつきはしない)による殺人を犯すことに喜びを感じている揺るぎなきヒーロー=エドガーとその彼を焚きつける相棒(そんな表現誰もしないが)アランによるギムナジウムホラーミステリーに成長した。
『トーマの心臓』との相似点も楽しみのひとつでもある。(相違点も)
まずは冒頭落ちてくる少年の構図から始まる。(「小鳥の巣」の出だしはキリアンの妄想だが)
『トーマの心臓』がトーマの自死から始まったように『小鳥の巣』ではロビン・カーの自死から始まるのだ。
しかしトーマが死んでも表面上すぐに日常が戻った『トーマ』とは違いロビン・カーの自死をずっと悲しみ忘れきれず行動する少年が「小鳥の巣」では描かれる。
それがキリアン・ブルンスウィッグである。
そして本編のもうひとつの主人公でもある。
今回は彼を中心に彼の眼から見える世界ともいえる。
キリアンのキャラクター構築の面白さは特筆ものだ。似ているキャラは『ファーストガンダム』のカイ・シデンだろうか。今急に思いついただけなので異論は認めるというよりじぶんでそうか?となった。
第二次世界大戦後1949年にドイツが東西に分かれる。この話は1959年ごろになる。(そして本編が描かれた1973年はまだ再統一前なのだ)
キリアンは東から西へ移動する際に母親を殺される?かなにかされ父親は国境でつかまり東側の陸軍病院にいる。つまりキリアンは歴史の歯車によって母を失い父と引き裂かれているのだ。
キリアンはクラスでも目立つ存在である。
髪を長く伸ばし教師からいつも注意されている。
好奇心旺盛でイギリスからの転校生であるエドガーとアランになにかと世話を焼く。
秘密裏に事を運びたいエドガーたちにとっては迷惑な存在なのだ。
普段は明るく騒ぐのだが酷く落ち込むこともある。
従姉のリース・ディーティールに思いを寄せていて彼女に恋人がいると聞いて「ぼくのことか」と早合点するがもっと大人の彼氏に紹介され失恋する。
そしてキリアンの最も辛い記憶のひとつは「自分がロビン・カーを追い詰めた」というものだ。
キリアンはかつて両親がいない状況に耐えきれなくなりひとり泣いているところをロビン・カーに憐れむように見られてしまった。
それに苛立ったキリアンは当時はやっていた「キツネ狩り」ー獲物を決めて皆で囃し立てながら追い詰める遊びーをロビン・カー相手に行った。
その直後、ロビンは死んでしまったのだ。
誰が殺したクック・ロビン・・・本編のキーワードである。
それ以後キリアンは髪を伸ばし人が変わったようになった、と温室の番人であるマチアスはエドガーに語った。
クラスにいじめられる者はみ出し者がいないようにと世話を焼く人間になったのだ。そしてそれは時々行き過ぎることにもなる。
キリアンと仲がいいのが委員長のテオドールと温室の番人たるマチアス。
テオのキャラも秀逸。なにかオタク的偏屈でありながら剽軽でもある。
マチアスの存在も良くて温室の世話をする彼は足が悪くて義足らしい。「この左足、時々ギアが入らなくなるんだ」という台詞が忘れられない。
そして何と言っても本編の魅力は「誰が殺したクック・ロビン」で有名なマザーグースを下敷きにしてのミステリー仕立てとなっていることだろう。
しかも萩尾氏は「この学校と同じ名前のガブリエル・スイスという気の良い上級生がロビン・カーと同じ日に死んだ」という謎まで付け加えているのだ。
更に創立祭の日にそのロビン・カーの水死体が見つかるがなぜか川の流れの逆に遡った場所で見つかるという謎の上の謎まで加えている。
この謎の答えを出した人はいるのだろうか。
私は真面目に考えたことはないが自死ではなく誰かの手によるものではなかろうかと思う。
キリアン・ブルンスウィッグのその後がどうなったのか、気になる読者は多いだろう。
後にテオドールはルイスと共に登場するがマチアスはすでにどこかへ行ってしまっていた。
私もできるものなら読んでみたいとは思う。
萩尾氏のペンによるものなら期待しなくても読む価値があるものになるに違いない。