1975年「別冊少女コミック」7月号
シリーズ第10作目。これまでの一連の物語がここに収束される。
この一編がとても好きです。
この一編だけでもいいほどです。
ネタバレします。
1966年、かなり現在に近づいてきた。
とはいえ古い館で配線工事もまだの為ランプをともしての会合が始まる。
最初の説明はなくゆるゆると何の会合なのかが判ってくる。
(まあ、『ポーの一族』シリーズなのはわかっているのでそれ関連だろうと思われるはずだ)
老紳士が一枚の絵を来訪客に見せる。
ひとりの愛らしい少女が「あらトーマス・ロレンスの「ランプトンの肖像」だわ」と発言する。
老紳士は「そのとおり。だがこれは模写です」という。
「顔が違うでしょう」そして「この絵を描いたのは昔この館の主だったアーサー・クエントン卿です」と続けた。
ここでロジャーという青年が発言する。彼はどうもこの会合に気が乗らないらしく老紳士の説明をまぜっかえすようなくちぶりである。
しかし老紳士はなおも淡々と説明を続けた。
クエントン卿は風景や静物を好んで描いた画家で人物画は自画像の他はこの少年のものだけだというのだ。
そこには1888年9月30日という日付が記されていた。
さらに同年10月13日日付の別の絵が示される。3枚目は11月5日。
最初の発言者の少女シャ―ロッテが座っている椅子によりかかるランプトン。
4枚目はその椅子の縁に座るランプトン。
5枚目はその椅子の前に立つランプトン。
老紳士は語る「この少年がランプトンという名だったとは思えない。が、クエントン卿は彼を自分のランプトンだと思っていた。その名で呼んでいたかもしれない」
シャ―ロッテは横にいるロジャーだけに聞こえる小さな声で「なんだかあの子、兄さんに似てない?」と呼びかけロジャーは「よせよ」と嫌がった。
6枚目壁の前に立つランプトン。「およそ20日に一枚の速いペースで少年の絵は描かれています」
7枚目の火の側のランプトン。
8枚目階段の下に立つランプトン。
9枚目、窓の側のランプトン。
「また一枚ごとに少年は室内から外へと移動していきます」
10枚目庭先のランプトン。
「そして最後の作1889年5月20日「ランプトンのいない部屋」という題がついています。
この後、クエントン卿は絵を描かず三か月後8月末に33歳で亡くなっています」
クエントン卿は頑固で無口で孤独な人生を送り年取った下男に身の回りの世話をさせるほかはずっとひとりでこの館に住んでいたという。
「彼が死の前に描いた少年が何者だったかは一切の記録はなく不明です」と老紳士は告げる。
ロジャーは不満の声を上げた。
「オービンさん。そんな謎々を聞かせるために我々を呼んだのですかね。頑固一徹の男がたまたまどっかのガキを気に入ってたくさん絵を描いた、というだけの話だろ?」
が、老紳士オービンは静かに言葉を続ける「いえ、この少年の話はまだある。ミスター・ドン・マーシャル。あなたの話をどうぞ」
ドン・マーシャルは話を引き継ぐ。
「ランプトンの絵を見つけたのは私です」
16年前大学生だったドン・マーシャルはひとり夏の旅行を楽しんでいた。
徒歩でソーア川に沿いレスターの町に向かっていたところ突然の雷雨に遭い飛び込んだのが売りに出されていたクエントン館だったのだ。
鍵のかかっていない館の中にいたのは不動産屋で飛び込んできた彼に驚く。
雷の光で浮かび上がったのは階段の壁にかかった例のランプトン絵画だった。
マーシャルは顔が違うことで模写だと気づく。
不動産屋はクエントン館が売れないことを嘆き「その絵くらい持って行っていいですよ」と言い出した。
マーシャルは旅の記念にとその絵をもらい受けレスター駅まで車で送ってもらいバーミンガム行きの列車に飛び乗ったのだ。
そこに薔薇だけの大きな花束を持った二人連れの少年がいた。
マーシャルは座席上の棚にもらった絵画を乗せて座った。
後になって気づいたがその日はクエントン卿が亡くなった8月20日だった。
「次だよ」と言って少年たちが立ち上がるとガタンと列車が揺れ棚の上にあった絵画が落ちエドガーの頭を直撃したのだ。
ドン・マーシャルは驚くがエドガーは慌てることもなく「降りよう」とアランを連れて下車してしまう。
マーシャルは後を追ったが二人は構わず国定公園という札のある公園内の家にはいっていった。
最後の列車に乗り遅れた彼はホテルもなくやむなく少年たちが入っていった公園の家に向かう。
家の中の暖炉では赤いバラが燃されていた。そして外では黄色のばらのなかであの少年たちがふざけているのが見えた。
マーシャルとの再会にアランは気を悪くし二階へ上がっていったがエドガーは彼に付き合って夜を明かした。
「なんでぶち殺してしまわないのさ」というぶっそうな声で目が覚めた彼は礼を言って外へ出た。
そして列車に乗りもらった絵画の包みをほどいて眺めてみた。
そのランプトンの顔はまさしくあの少年、エドガーの顔だったのだ。
マーシャルは公園の家に引き返し戸を叩いた。
管理人が気づき彼をたしなめる。その家は国定公園のもので勝手に入れる場所ではなかったのだ。
マーシャルは3年後(1953年)にこのことを大学の同人誌に発表試作品のタイトルは「ランプトン」とした。
そして1964年出版社に勤めていた彼は一通の手紙を受け取る。
そこには「グレン・スミスの日記」のことが記されていた。
マーシャルは返事の手紙を送りその相手に会う。その人はマルグリット・ヘッセン。
グレン・スミスのひ孫だ、ということは『ポーの一族』読者なら知っている。
マーシャルがマルグリットの家で話していると甥っ子のルイスがやって来てランプトンの絵を見て「まるでエドガー・ポーツネルの顔だけど」と言い出す。
マーシャルはマルグリットとイギリスへ戻り結婚し翌年(1965年)これまでの経緯を「バンパネラ・ハンター」というタイトルで出版。
オービンは昨年書店でこの本を見つけすぐにドン・マーシャルに会い、クエントン館を訪れて購入した。
という次第なのだ。(不動産屋氏、16年以上待ったのか)
こうしてオービン氏は会合を催す。
そして冷笑的なロジャーに「あなたがたは私の見つけた王手のひとつだ。オズワルド・オー・エヴァンズの子孫だから」と告げたのである。
そして登場したのがルイス・バードとテオドール・ブロニス。
ルイスはまずキリアンの養父の家を訪ねるが彼はどこかへ旅立ってしまったのだと言われる。そしてキリアンが残していった「ドイツ史」の本を手渡される。そこには「さようなら。またいつかあえるまで」と記されていた。
次に訪ねたテオはその本を欲しがる。
ルイスはエドガーとアランの話をしてくれと頼むがテオは「あほくさ」と言って話したがらない。
ルイスは「じゃ、これはやんない」とキリアンの本を持ち帰ろうとした。
こうしてテオはキリアンの本欲しさに渋々会合に顔を出したのだ。
キリアンは「ガブリエルスイスギムナジウム」で体験したエドガーとアランの話を皆にする。その中でエドガーとアランに血を吸われたマチアスがヴァンパネラに変化しようとしテオはマチアスに枯れ枝を突き立てた。そのとたんマチアスは消えたのだ、と。
テオはヴァンパネラなど信じてはいない。
だが我々とは違う異質の生命体だと話した。
いまでもどこかにいるのだろうか。
その青い目の少年はたった今も彼らのはたを時はゆく。彼らにとって時はそのまま止まっている。変わってゆくのは周囲であり私たちのほうなのだ。
オービン氏は「それが夢であってもかまわない。その奇跡にもう一度会いたい」と声にした。
その時、どこからかキナ臭い空気に息苦しさを感じた。
幻想的な会合が一瞬にして火事の騒ぎとなる。
人々は急いで逃げ出したがシャ―ロッテだけがランプトンを運ぼうとして逃げ遅れてしまうのだ。
ロジャーは会合が開かれたことを罵り後悔する。
そしてシャ―ロッテを救おうとして救いきれなかったアランはエドガーにもたれかけ泣いた。
好きすぎてしょうがない。
映画化するならこの一編を主体にして欲しいのである。
シャ―ロッテの死がこの話がどんなに残酷な物語なのかを思い出させる。