ガエル記

散策

『陽だまりの樹』手塚治虫 三巻「下田の章」

幕末・維新にはまり中の今。

注目すべきは薩長土肥よりも水戸藩なのではなかろうかと思っています。

本作ではあまり出てこないかもしれませんが、水戸藩の浪人牛久保が登場しています。

 

ネタバレします。

 

 

緒方洪庵適塾で手塚良庵はダメ人間ながらもなんとか医学を学んでいく。

まずは仲間たちで嫌がられながらもアンモニア精製をし、洪庵先生の付き人として痘瘡にかかった大店の主人に会いに行く。

しかしそこの主人は種痘には嫌悪感を持っており自分自身の診察はさせず使用人にも種痘は禁じ調べるだけならというのであった。

すると店で下働きをしている若い女が風邪で休んでいるという。

洪庵に命じられ良庵はその女の家を訪ねる。

果たして女には初期発疹が見られた。

ここからヤクザ者平太に種痘を打たせるドタバタ劇が始まる。

ヤクザの仲直りの手打ち式がおもしろい。

そういう話から適塾緒方洪庵の種痘の苦労話が続いていく。

良庵はお品という美女に惚れ込んでしまうがそのお品は適塾のライバルである華岡塾の高弟の子息と結婚させられそうになっていた。

その男の下品さをお品は嫌悪していたのだった。

 

ここに本作のヒロインともいうべき夜鷹のお紺が登場。

手塚治虫氏が大好きな気の強いシャキシャキした女である。

手塚マンガではめそめそした美人はたいがい酷い目にあうが勝気な女子の活躍は胸がすく。お紺はめそめそ美女の打ち明け話を盗み聞きして自らその男をこっぴどい目にあわせて金をむしり取るのであった。かっこいいねえ。

 

さてめそめそしたお品の方は江戸で起きた地震の時に出会った伊武谷万二郎に恋をしていた。

それを知った良庵はガックリする。

しかしお紺の活躍のおかげでお品も種痘をすることになる。

 

さて話は下田に来航したアメリカの黒船に移る。

下田奉行井上信濃守と岡田備中守はタウンゼント・ハリスと書記のヒュースケンを迎え古い寺を宿舎とした。

 

伊武谷万二郎はこの二人のアメリカ人の護衛を命じられた。

最初は反感を持った伊武谷も「異人たちから国を守ると考えればいい」と言われて納得する。

言葉は通じず風習も異なるが万二郎は次第にヒュースケンと近しくなっていく。

しかもここで尊王攘夷牛久保が現れヒュースケンを殺そうとしたのを救ったためにより親しくなる。

ところがヒュースケンが風呂屋を見学してひとりの女性の裸体を見たことから話が捩じれていく。

ヒュースケンはその女キチの住まいを伊武谷に問いその家を訪ねていわば強姦してしまうのだ。

その一方でハリスはアメリカ大統領親書を自ら将軍の手に渡したいと交渉し続けていたが一向にはかどらずついに吐血して倒れてしまう。

ヒュースケンはハリスの健康のために牛乳が必要だと万二郎に依頼する。

「おキチさんに頼んでほしい」と。

万二郎はしぶしぶながらもアメリカ人のために走りまわることになる。

 

仕方ないしそういうものだろうけど嫌な話が続くよな。

 

幕末・維新の話と言えば普通の人は戦争の上の方を描くものだけど手塚治虫手法は下の方でありわかりやすいが派手さがない。

そういう話もまたおもしろい。