1978年「週刊マーガレット」22号
ブラッドベリの物語はどれも他の作家が書いたものとは違う不思議な味わいを持っていますがこの話は特にそんな印象があります。
ネタバレします。
物語設定はむしろよくある話、というものにすぎない。
主人公の男の子の父親は誇り高い宇宙船乗組員だ。
主人公も男の子だけに「将来自分も同じ道に」と願っている。
だが母親は夫がいつ死ぬかわからない宇宙船乗組員であることに絶望している。
夫が帰ってくる時に頼めるよう芝刈りや故障した家電をそのままにしてとっておく。
そして帰ってきた夫にその修理や家の手入れを頼むのだ。夫はにこにこしながらそれを片付け妻は幸福そうに見守っている。
しかしその時間はあっという間に過ぎて夫であり父親である男はまた宇宙へと飛び立っていくのである。
仕事にとり憑かれた男と待つだけの女、という古今東西ありきたりの話なのだがブラッドベリが描くと奇妙に幻想的な作品になってしまう。
妻であり母親である女は言う。
「あのひとはもう二度と戻ってこないと思うことにしてるの。でもあの人が金星で死んだらもう二度と金星など見るに堪えない。火星ならば火星を」
ところが男は太陽に落ちて死んでしまったのだ。
母と息子はそれからずっと夜か雨の日にしか外出しなかったのである。
こういう発想が読む人に様々なインスピレーションを与えてしまうのだろう。
理数系のファンタジーというのか。
夫が死んだから自分も死ぬとかじゃなく太陽に落ちて死んだから二度と太陽なんか見てやるものかという復讐に感服する。
そんな母親に寄り添ってあげる息子も優しい。