ああ、ついに最終章へと。
ネタバレします。
阿修羅とシッタータはこれまでの歴史を思い起こしていた。
おそらくは遠い昔に弥勒達のたくらみに気づいたものがいて弥勒の計画を阻止し人々を助けようとしたのだ。
いたるところにその指示が残されていたはずだ。
それらは現存の神とはことごとく正反対の意味を持ち真っ向から神に対立したのだ。それはそうだ、そもそも目的が違うのだから。
それゆえ彼らは善の神に対する悪の神として否定され存在をうしなっていったのだ。
例えば阿修羅、おまえもそうだ。
色即是空、彼岸、これらの言葉は超越者の存在を無に帰する宇宙を預言し忠告していたのだ。
だがすべての言葉は、警告は永い時にことごとく消されていった。
そうしてかろうじてわたしたちだけが残ったのだ。
何者かが阿修羅とシッタータを長い眠りにつかせ最後の切り札とした。
その間に惑星開発員会は最後の仕上げをしていったのだ。
今、我々は彼らの正体を知った。破滅への開発者。
しかしシッタータはここまで語った後「阿修羅」と呼びながら目を伏せた。
「我々は遅すぎたのだ。もう取り戻せない」
うずくまるシッタータの横で阿修羅はまだ腕を組み立っていた。
「だがまだやつらはいる。そしてわれわれも」
その時オリオナエが叫んだ「できたぞ!」
そこにはオリオナエが運び出した球体を分解して造ったという奇妙な回転扉があった。
(なんかちっちゃい)
阿修羅が「どれがエネルギーの発生装置だ?」と問う。
「発生装置はない。エネルギーはこの解析格子から流れ込んでくるんだ。この格子は球体にあったのとおなじやつでな。その流れの元はおそらく〈ディラックの海〉だ」
水素原子を生み出すという無限のエネルギーの波寄せる深い〈ディラックの海〉だ。-エネルギーの世界。したがって無制限の量のエネルギーを流しこむことができる。今ディフレクターを無制限回数の表に合わせるからみてろ」
エネルギーが新しい空間を生み出す。その空間の座標は球体が示していたエントロピー〈D〉の座標と同じだ。
「その座標はアンドロメダ星雲の中だ」
「そう。アンドロメダ星雲第八象限の中の第二の腕だ」
阿修羅は言う「そこへ行こう。その〈D〉座標へ」
この世へ現れた滅びの使者がたどってきた道を通って
その神と呼ばれた者が我々を忌み嫌い呪縛をかけた、その者の住みかへ
「神の住まい・・・果たしてそれは」
三人は回転扉を通っていった。
そこは光の洪水
氷の世界だった。
影がない世界だった。
そして氷に包まれた巨大な都市があった。
阿修羅は命じてコイルで空間断層(バリヤー)をつくらせた。さらに各自でバリヤーをつくり〈ディラックの海〉とのつながりは虚数カイロで保たせた。
ノヤの公式。閉鎖された虚数空間、マイナスエネルギーの世界だ。
三人は虚数世界への来てしまったのだ。ここから脱出するにはこのバリヤーを開放しなければならないが説いたその瞬間に虚数空間に接触して凄まじいエネルギーが発生する。爆発の後、すべてはマイナスエネルギーと化し無に帰す。
オリオナエはオリハルコンを使ってこの格子を流れるマイナスエネルギーのフィルターにし脱出しようと考えた。
しかしかつてエルカシアで渡されたオリハルコンは以前かわいそうな死んだ少女にあげてしまっていたのをオリオナエは忘れていたのだ。
シッタータは「我々三人の最高エネルギーを合わせてそれを作れないか」と提案した。
およそ十一億メガワットが三乗する、そのエネルギーを使ったフィルターで0・08秒内にバリヤーを解いて移動する。
失敗すれば三人ともマイナスエネルギーの〈ディラックの海〉に還元されてしまうだろう。
しかしオリオナエは「失敗しても残ったエネルギーがなんとか一人は助け上げる」と言った。
阿修羅は先頭にはいりシッタータ、オリオナエと続いた。オリオナエは最後に虚数回路を開き雨この都市を消失させた。
消失する・・・それもまた運命の約束だ、なぜなら・・・我ら三人はここへ来なければならなかったのだから。
終章「☆百億の昼と千億の夜」
ふたたび現れたのは阿修羅だけだった。
それとオリオナエのつえだけが阿修羅の手にあった。
「ではふたりはこの宇宙のどこかに寄せるディラックの海に還元されてしまったのか」
その時阿修羅の頭上に渦状星雲が向かってきていた。
重なるふたつの星雲はぶつかりあい熱を発し最後の一片までお互いを焼きつくすだろう。あたかも有より無に帰するが如く。
そうだ、すべては無に帰す。ディラックの海に帰る。
空即是色。マイナスエネルギーの海、この言葉を最初に唱えた者はだれだろう。この宇宙の運命をそれは知っていたのか。
その時、阿修羅に語りかける声があった。
それは阿修羅、シッタータ、オリオナエを戦士として選びここまでの道をしるし願いを託した者だった。
その声は「転輪王」と名乗った。
かつて阿修羅はシッタータに語った「この世界の外にあって生成を得ること一兆年という」転輪王。
転輪王はこれまでの歴史のすべてを見てきた。
人々は弥勒のもたらすという浄土を願って荒廃と戦った。しかし荒廃の本当の意味を知ろうとはせず、すべたは終わってしまったのだ。
この世を救うべき私は何の力にもなり得なかった。
阿修羅は問うた。「この世にあらわれた〝シ”とは一体なんだ?その正体は?」
「彼らは彼岸に住む超越者だ」
「彼岸とは・・・またはるかな言葉だな。それはこの世のものには辿りつけぬ宇宙の果てか」
転輪王は阿修羅に宇宙の果てとは何かと問う。
宇宙の膨張速度が校則に達したところに果てがある。
その時宇宙全体の質量のため空間が閉ざされ一個の球体の内部を構成する。
ではその球の外は?閉ざされた内部があるということはさらに外があるということだ。しかも無限に。
この内の世界では二千億年の昔原初の時点から時は流れ始め二千憶年のかなたでやむ。しかしそれすら外の世界の無限の広がりに比べれば超時間のほんの切片だ。
阿修羅よ。
すべての時にも人の心にも願いは常にあった。
願いとはなんだったのだろうか。
神、超越者にとって我々や宇宙はなんだったのか。
われわれの存在の意味とは。
転輪王は阿修羅に幻を見せる。
そしてそれを見た後でどうするかはおまえが自分で道を選ぶが良い。
元来た道を戻っていくか。さらに先を進むかを。
そうして阿修羅は世界を感じていく。
シッタータとオリオナエの気配もあった。
大いなる変転となり転輪王と意識を同じにしていた。
と、異様な言葉も聞いた。
「あの変なものはどうした」
「その変なものはよく動く、たいそう原始的な生物だ」
誰だ、お前たちはなにものだ。
気づくと阿修羅はふたたび地の上に立っていた。
転輪王、あれらは何者だ。
私たちはなんなのだ。
どうすれば真の道へ行けるのか。
この世界の外にさらに大きな世界の変転がありさらにその世界の外に世界が
そしてまたその外にもさらに永遠の世界が続くのなら
私の戦いはいつ終わるのだ・・・?
すでに還る道はない
また新たなる百億の昼と千億の夜の日々が始まる
完
いろいろなことを考えながら読み進んできました。
たしかにこの世界はまるで何者かが破滅へと誘おうとしているとしか思えません。
日々のできごとを知ればそう考えるしかない。
いつまでも終わらない様々な憎悪、争い、人々は確かに幸福を願っているはずなのに事態は悪い方向へ進んでいくとしか思えない。
阿修羅がどんなにこの世をより良くしようと戦い続けても人類は破滅をめがけているようではありませんか。
それでもなおたったひとりになってもあらたに百億の昼と千億の夜を歩き続けようとする阿修羅の姿が悲しく思えます。
彼岸・・・という言葉を読んでいて音が同じ「悲願」という意味が浮かんできました。
人々は幸せを願いながらどうしてそこへたどり着けないのでしょうか。
でも心の底では「いつかきっと」と思ってもいるのです。