ガエル記

散策

『スター・レッド』萩尾望都 その1

1978年「少女コミック」23号~1979年3号

ああ、ついにたどり着いた『スター・レッド

私は少女版『バビル2世』だと思っています。(最近横山マンガ履修後)

バビル2世並みの超能力(しかもまったく疲労しない)とまっすぐ突き進んでいくバイタリティ。三つのしもべはいませんが仲間と共に戦う。

物語としては同じく横山光輝『地球ナンバーVー7』の方が火星を舞台にすることもあってより近しく感じられます。

 

 

ネタバレします。

 

 

昨日書いた『ゴールデンライラック』と違い本作『スター・レッド』はまさしく萩尾望都作品という醍醐味をたっぷり味わえる。

主人公は故郷火星を一途に愛し地球人に奪われた火星を取り戻すという一念に突き進んでいく少女セイ・ペンタ・トゥパール。

地球人との戦いで両親を殺され地球人である徳永周の養女となって地球で育った。

その間は髪を黒く染め黒のコンタクトレンズを入れていたが実際は髪は白く真っ赤な目をしているのが火星人の特徴なのだという。

 

火星を熱愛し地球人を憎むセイだがパパ・シュウへの恩もあるのか地球で暮らしていた頃の彼女はそこまで地球人を毛嫌いしてはいない。

ただ暴走族の族長になり常に突っ張った態度でいたのは心底地球人に心許せはしないという現れだったかもしれない。

それでも同じ族の相棒であるサンシャインには好意を持っているのが見て取れる。

バイク乗りで他の仲間を引き離してふたりだけ郊外まで到着した時「虫が鳴いている」という彼に「ロマンチストね」というセイの言葉に束の間ほっとしたやすらぎを感じる。

萩尾マンガの展開は早い。

トーキョー・シティの上区・下区という暴走族の争いと同盟の間にセイはエルグという正体不明、謎の男と出会う。

いったんは赤くなった目に騙され火星という同郷の仲間と勘違いさせられた後、エルグが何者かわからないまま「火星に連れていってやろうか」という誘いを疑いながらもセイは火星に行きたいために約束に乗ってしまう。

そしてそのままあっという間に火星へ到着してしまったのだ。

 

エルグの正体はわからないまま彼の無防備で無邪気な態度にセイは次第に親密になっていく。

火星の最大都市クリュセ宇宙港にガニメデから来た地衣研究家という肩書のパスポートで着陸する。

ここですぐセイは「女性の方は血液検査をしてください」と促される。火星では出産が最重要課題となっていて女性は二週おきに血液検査を受けることが義務になっているという。

こうした詳細な設定がSF世界を構築していく。

 

女性が創るSFは(という括りをすると憤慨されることが必至だが)かなりの割合で性と生殖についての考察になるのではないだろうか。

アーシュラ・ル・グィン『闇の左手』マーガレット・アトウッド侍女の物語』などにも感じられるが萩尾SFもまた一貫して「性と生殖」についての考察SFであると言えるし本作も明確にそうなのである。

 

本作で火星は子どもが生まれない星と設定されており唯一クリュセだけが子どもを授かることができる場所とされ火星人はこの聖地を取り戻そうとしているのである。

だが一方、クリュセで生まれた子どもは地球人の間の子どもであっても火星人なのだ。

世代が進むごとに色素が薄くなり同時に超能力を身に着けていく。

一代目より、二代目三代目はよりその要素が強くなる。

セイはペンタ=五代目であり希少な存在でもある。本作中の火星人でもっとも優秀な超能力を持っているのだ。

果たして小競り合いがなくそのまま代を重ねていたらその能力はどうなっていったのだろうか。

 

もうひとつ、本作の特徴として少年マンガ的な「巨大な敵」が存在しないことだろう。

本作が、というか萩尾作品がいまいち一般受けし損ねているのはこの「巨大な敵」が不在だからだ。

『百億の昼』の「惑星開発委員会」のような、『バビル2世』ならヨミのような圧倒的ライバルを萩尾作品は登場させない。

それは『ポーの一族』でもしかりであり『残酷な神が支配する』においてもその巨大敵は早々とログアウトしてしまう。

巨悪との戦いを期待する一般人としては「なぜ?」という設定に思えるしもしかしたらそれがつまらないと感じさせるのかもしれない。

実はここに気づくのには時間が要った。私自身にはつまらなくないからだ。

(ヨミがいない『バビル2世』と言えば(少し出てくるが)『その名は101』になるというのがヒントだろう)

しかし本作はかなり少年マンガ的にビルドアップされている。

ここで出てくるのがペーブマンだ。

この恐ろしい男がセイの前に立ちはだかる。