ガエル記

散策

『スター・レッド』萩尾望都 その4

 

ネタバレします。

 

 

一つの変化が現れる。

あれほどセイを欲していたアン・ジュールがセイの超能力に恐れをなしてしまうのだ。

このエピソードが恐ろしいほど印象的なのだ。

ESP研究所の一室でアン・ジュールと所員ベルがセイについて話す場面だ。

まずアン・ジュールがセイの視力がゼロだという。創作であるとはいえ読者はここでまず驚く。

しかしベルは落ち着いて「透視能力があるんだろう」と答える。

アン・ジュールは時々セイの頭の中が見えるのだけど色彩や物体が正常に見えてないらしい、と続ける。これを聞いたベルはそれをスライドに念写してくれと頼む。

ベル氏は「セイは視力が無いから視覚に制限がないのだ。ありとあらゆる角度からありとあらゆる波長でものを見ている。視点が固定されておらず消失点がなく多数のベクトルでとらえているのだ」と説明する。

超能力の透視能力をこんなふうに表現したのを読んだのはこれが初めてだった。

さすがに私もえっとなったし当事者のアン・ジュールはこれ以降セイの超能力に恐れを抱くのだ。

直後タイミングよくロビンソン島にあるESP研究所にペーブマンが訪れ「超能力は人間の退化を意味する」と言い出す。

「超能力さえあれば目も耳も声も要らない。手も足も要らず石ころのように転がって考えているだけでいいということだ。私は今の人間の姿が一番美しいと考えに賛成します」

以前ならすぐに反発しただろうアン・ジュールはベルとの対話でセイの超能力に疑問を持ってしまっていた。

別室にいたセイはアン・ジュールの不安を感じ取る。

(なんだかここは不良少女が信じていた教師に裏切られた場面のようだ)

アン・ジュールの不安に動揺したセイはたまらず外へ出るとそこに(自分の命を狙っている)クロバがいた。しかもヨダカの姿はなくヨダカ(シラサギの)の杖を持っているのを見てセイは大きな衝撃を受ける。

途端に地鳴りが響き地震が始まるのだ。

セイの心的ショックが島全体を揺り動かしESP研究所を破壊してしまう。

無論そこにいた子どもたちはあっという間にその揺れと流れ込んだ海水で傷つき溺れてしまう。

セイとクロバはそうした子どもたちの砕けた足をつなぎ息を吹き返させて安全な親もとへと瞬間移動させていく。

ロビンソン島は完全に砕け散り所員と無事だった子どもたちは逃げ延びた。

ベルは海底の地殻変動に巻き込まれたと思っていたがアン・ジュールはこれがすべてセイの念動力によって起こされたと感じ取っていた。

ペーブマンはさらに火星人への憎悪を強くした。

アン・ジュールは衝撃に打ち崩れていた。

 

この後本作でもっとも感動的なエピソードにつながっていく。

火星で生まれた地球人、つまり一世代目(モノ)であるピアンは火星のそれも火星人たちの家畜であるシロワタ(羊のような存在だろう)の中に現れたのだ。

それを見つけたのが中年女性カスガだった。

これを「カスガが子どもを生んだ」と百黒老に報告される。

しかし火星ではクリュセでしか子どもは生まれない。そんなことができるはずがないのだ。

百黒老とチグルたちはカスガを訪れる。

カスガはシロワタの中に座って小さなピアンを抱きしめていた。

しかし百黒老とチグルは「すぐに殺せ」と命じる。「災いだ」

しかも第一世代の子どもなぞ空気さえろくに作れないのだ。しかしカスガは「私が世話をします」と言ってきかない。

百黒老は子どもを取り上げ高く掲げた。

「その子を殺したらこのこのシロワタを全部殺す」

「その子に空気をやって。苦しがっている」

おとなしそうな中年女カスガの激しい怒りにそして周囲の女たちの訴えの中で百黒老はやむなく子どもを渡すしかなかった。

女たちはいっせいにピアンを抱きしめるカスガにむらがり「私にも抱かせて」とピアンを見つめるのだった。

 

なんかもう唐突に良い話でしょっちゅうこの話を思い出してしまう。

いや、男たちの中にも同情的な人がいただろうとは思うけど。

可愛い赤ん坊を助けてあげたいと思う女達にぐっときてしまうのだ。

 

一方、セイとクロバはトーキョーシティの自宅に飛んでいた。

クロバはセイに育ての親は自殺したことと助けようとしたヨダカが魂を抜かれた、と告げる。

そこへあの異様な美しい異星人が現れる。

そして「エルグはどこだ」と問う。

その言葉を聞いてセイはエルグを思い出しまたもやテレポートしてしまう。

飛んだのは同じくトーキョーシティ内のエルグのアパートだったがその奥のドアが宇宙につながっているのを知りセイは宇宙空間に身を投じる。

 

クロバは謎の美異星人に気絶させられ美異星人は逃げ出す。

そこへサンシャイン、源、カッパが登場。

源、カッパは異星人を追いサンシャインはセイの家に入り見知らぬクロバが倒れているのを見つけ気つけに酒を飲ませクロバのテレポートで源たちと合流する。

その流れで今度はエルグの部屋へ飛びそこにはまたあの美異星人がいた。

ドアの奥が宇宙空間とつながっているのを知り驚くがクロバの目にはその先にセイがいるのを見つける。

そしてセイはエルグを見つけ皆の元へと戻ってきた。

 

戻ってきたエルグに居丈高な態度をとる美異星人ミュージュに皆は反発する。

そしてエルグはミュージュもろとも皆を別の世界=どうやらミュージュの星へとテレポートさせた。

ミュージュはなおもエルグを半獣人と呼んで蔑んだがエルグはそんなミュージュの言葉に動揺することはなかった。

 

ここでエルグがセイへの思いを言いかける。

物語はますます複雑な方向へと進んでいく。

単純なバトルだけに馴らされた勢には共感しづらいのかもしれないがこの複雑さが醍醐味なのだ。

こういう表現は反感だろうけど。