「SFマガジン」1980年12月号~1982年6月号
初めて読んだ時はその美しさに圧倒されるばかりで「いったい何なのだ」としか思えなかったのですがその後も何度か読み続けてきました。
今回再び読み直してどのくらい読めるのか確かめてみたいものです。
ネタバレします。
この複雑に美しい物語を理解するのは困難なことだろうが私たちは一つの鍵をみつけてはいる。
それは酷く悲しい音のする鍵である。
この作品の核になっているのはリザリゾ王とその「異形の王子」の関係性だ。
王には他にも子がいるが金色の細長い目を持つために「忌むべき者」だとして王によって斥けられ死刑執行人によって殺されるが死なない。何度も何度も殺されては生き返る。彼は父親に一生殺され続けられる運命なのだ。
そして十五年後、すっかり年老いたリザリゾ王は自ら剣を取り息子の胸を貫く。
その時息子=ル・パントー最初で最後の異形音を発して自殺するのだ。
もう彼は目覚めず王はあっと安心する。
萩尾望都は作品の初期からずっとくり返し「愛されなかった子ども」を描き続けてきた。
その理由は述べられてはいるが彼女がどれほどの悲しみを受けたのかは想像するしかない。
そして本作では実父によって一生殺され続けられるという過酷な運命の子どもをあらわした。
なぜ萩尾望都はこれほど恐ろしい宿命をル・パントーに与えたのか。
彼女自身がそれほどの苦しみを受け続けてきた、ということなのだろうか。
「愛されなかった子ども」の物語は本作で終わることなくこれ以降もそして今もなお続いているといえる。現在続けられている『ポーの一族』シリーズもまた「愛されなかった子ども」の物語だからだ。
そしてこの悲しい忌むべき者、異形の子の最初で最後の声によって「美しい世界」が砕け散ってしまうという。
それはそうだ。誰がそんな悲しい声を聞きたいと思うだろう。
そんな声を聞いた途端、美しい世界など失われてしまうのだ。
本作の水先案内人であるラグトーリンはこの異形音を取り除こうとする。
そしてそこに「マーリー」があらわれるがラグトーリンは彼を殺してしまう。
しかしラグトーリンは彼の存在に期待しクローンであるマーリー2マーリー3に援助を求める。
ラグトーリンは歪んだモザイクの宇宙を正すために何度も何度も修正をやり直しついに「かなりうまくやる」ところまで到達する。
が、その代わりにパントーはこの世界から失われてしまう。
リザリゾ王に異形の王子は生まれず反乱も子殺しもなく細長い瞳の種の伝説もなくなったのだ。
これを聞いたマーリー2は「あの子をもどしてくれ。消さないで」と涙を流す。
萩尾望都はマーリー2なのだろう。
感じ病みやすいこの空間が美しく狂いだすまで
わたしもしばし夢狩りの不安な歌を歌い続けよう
萩尾望都は忌むべき子が消えたことに安堵してはいない。
いったいそれは何故なのだろう。