ガエル記

散策

『銀の三角』萩尾望都  その2


書きたいことはおおよそ書いた気もしますがこの作品から離れるのが寂しいのでもう少し書き足してみたいと思います。

 

 

ネタバレします。

 

 

本作を読んですぐ思うのは物語を導いていくラグトーリンの容姿に『百億の昼と千億の夜』の阿修羅が重なるというイメージではないだろうか。

黒髪で華奢な肢体をし強い眼差しを持つ少女。

阿修羅もまたかの物語の牽引役だった。

違うのは阿修羅が「戦いの申し子」と呼ばれていたのに対しラグトーリンは楽器を鳴らし歌を歌うこと、だが人の生き死にを操作していく。

男性作家と女性作家の違い、という決めつけはタブーではあるとしても「戦争を知った世代」と「戦争が終わった後の世代」が生んだ作品という対比はできるだろうか。

いや現代でも戦争や惨たらしい設定で異世界を構築していく作品は多いが(その真逆もまた多いというのもあるが)『銀の三角』ではむしろ心地よい環境が描かれるのだがその中で人間はどうしても様々な困難を生み出し遭遇し苦しみ続ける。

私にはそうしたSFが好ましく思える。

 

(一)いのりのあさ

ラグトーリンが生まれた世界の話。

六年に一度婚礼の朝がくる世界だ。

萩尾望都は「現実の人間世界では絶え間なく女性は生理の苦しみを味わっていなければならない。それは人間に繁殖期が定まっていないからだ。六年に一度繁殖期が訪れる、という世界ならどれほど楽なことか」と考えてこの物語を作ったのだが、さあこの希望がかなえられることはあるのだろうか。

まあむしろ昔は女性の妊娠可能期間が短かったので生理期間も短く現在ほど苦痛が長いものではなかったんだろう。

どちらにしても女性が生理をコントロールしたいという希望は叶うべきだろうしそうなっていくとは思う。

 

ほんとうにこういうルールの世界があり得そうに思える美しい世界観である。

 

(二)チグリスとユーフラテスの岸辺

これを読みなおして「そうか。萩尾望都SFもメソポタミア文明なのだ」と目が覚めた。

横山光輝『バビル2世』のバベルの塔が建つ場所だ。なにしろ砂の嵐に隠されているんだから。横山SFも古代とシンクロしているものが多い。

 

マーリーはここでエロキュスと出会う。

友人のジェイフが送った海賊版のカセットでその歌声に魅了されたのだ。

がコンサート中、トメイのクーデターに巻き込まれ(と説明されるがそのあたりがぼやかされて描かれておりよくわからない)エロキュスはマーリーとともに脱出する。

エロキュスはネオ・ルネッサンスのオペラの女王ルルゴー・モアでもある。

彼女はかつて高山の中でラグトーリンの歌声を聞いた。そのそばには美しい少年が座っていた。

その日からルルゴーはエロキュスとなり自分の祖先が住んでいたのではないかと思うチグリスとユーフラテスを想って歌うようになったのだ。

そして彼女は眠りにつく。

 

(三)ミューパントーの歌

マーリーは別の惑星へ飛びブール・マンの第三号コンピューターに会い話をする。

マーリーはレリーフの図柄を見つけて問う。

「音は残らないがどの民族にも音楽はある」(これが後に重要な鍵となる)

そこでマーリーはエロキュスの話をし、三号からラグトーリンの話を聞く。

さらに様々な伝説を。

ラグトーリンは「金色の瞳、虹彩が光に針となる人物を知らないか」とブール・マンに問うた。

その人は『銀色にけぶる三角』と名付けた星に住んでいたという。

銀の三角は彼らの言葉ではスパニーもしくはスープーニーという発声でパが三を表す。

その種は絶滅したという。

種の断絶を考慮した生物学者たちが対策を試みたもののうまくいかなかった。

 

三万年ほど昔の話だという。

 

(四)ラグトーリン迷路

マーリーはエロキュスの琴を携えラグトーリンを探し続けている。

ミー・コンに捜索を命じ赤砂地のリザリゾ王を訪ねることにした。

途中でジェイフに再会するがすげなく去る。

折しも王の第三后が王子を産み落とした。

その子どもこそがラグトーリンが探している「金色の目」を持つ者だったのおだ。

リザリゾ王は一目見て「魔性の子を殺せ」と命じた。

 

本作の主題となる「我が子を殺す父」の始まりだ。

 

(五)風 水 時の流れ

王子は死産だったと伝えられた。

マーリーは王から預言者ペシャを助け出す。

そして彼からラグトーリンの居場所を聞き出す。

そこを訪ねていくと「あなたが四年前に探していたラグトーリンという娘がわかりました」と謎の言葉を言われる。

マーリーは四年前に訪ねてきた「マーリー」とは何者だ、と思いながらもラグトーリンの居場所を聞き出す。

彼女はタカオという名の青年に気に入られつれ帰ったというのだ。

 

マーリーはタカオに会いラグトーリンを訪ねる。

マーリーはエロキュスの琴を見せ「ラグトーリンを信奉していた女性歌手の琴を渡したいのです」とタカオに説明した。

中央の男の出現をタカオはこころよく思ってはいないがそれでもラグトーリンのためにマーリーを案内した。

 

一弦しか残っていない琴を渡してマーリーは何か歌ってほしいと頼む。

ラグトーリンは琴を受け取りながらも「彼女を知らない」と答えた。

そして一弦の琴を弾く。

「なぜ私を殺しにきたの?」

マーリーは銃を出してラグトーリンを撃った。