1985年「プチフラワー」1月号
むむ。
これは前回書いた別のバージョンのやつではないか。
ネタバレします。
つまり『船』の男✖男の子の別バージョンだっておもしろくなる、の例。
女✖男の子、のやつです。
この場合、攻めとか受けとかは関係なしで。
主人公の少年は実験を受けている。
地下の実験室。
照明は薄暗く時計もなく時間はわからない。
少年は何日か目なのかもう解らなくなっている。
これはまるでゆっくりと死んでゆく感じだ、と思う。
耳に蓋がしてあるため音はほとんど聞こえず手袋で指への刺激が少ない。
少年が壁の白いテーブルの側に白いボードがありボタンを押すとパネルが開いて機内食のような食事が提供される。
少年は飲み物の入ったコップを落とし液体が散ってフェルト地の床にシミができる。
くもりガラスのメガネをかけているので見るシミもぼやけて見える。
「ぼくはこのシミが好きだ」と少年はつぶやく。
壁にはマイクが仕込まれていてこの独り言は聞かれている。
時々120まで数えるように、という指示が与えられていて少年は思い出すと数えるが確かに数えたかどうかすらわからなくなるのだ。
このような実験はマンガ作品としては面白いが実際にどれほどやるのか、危険な気がする。
とはいえ萩尾望都はマンガ家で部屋に閉じこもり白い原稿を見つめ誰にも会わず人の声も聞かない、というような経験を長い間していただろう。
そんな時いきなり誰かが訪ねてきたりするとその人が物凄い美男子だとかではなくても「現実の生物」に遭遇したという感激というか動揺のようなものがあったのではないだろうか。
自分もかつて仕事で数年昼間どこにも出かけない生活をしていて久しぶりに日光の下で世界を見た時日光と風の感覚に感動したという奇妙な記憶を持っている。
本作品ではむしろ自然世界より人間との触れ合いを主人公は求める。
だけどどうなのだろう、所長夫人がどのような感想を持ったのか聞いてみたい。