ガエル記

散策

『Marginal/マージナル』萩尾望都 その10

 

ネタバレします。   

 

第21話「洪水」                   

突然の新マザの死にミカルはキラこそマザだと叫ぶ。

(この時のミカルは(というかこの世界の男はだけど)出産をどのように考えているのか?「みんなの子供を産んでくれる」と何のためらいもなく叫ぶのが恐ろしい。「蜜蜂のようなもの、と思っているとすればキラの腹が巨大化すると考えているのか?)

 

ここでアシジンだけがまったくキラの心配などせず自分の毒消しのことしか考えていないのがおもしろい。

 

ミカルは叫ぶ「きみは誰の子供を産むんだ?」

この時爆破のスイッチが入った。

それが暗示の言葉だったのだ。

 

七つの塔が次々に爆破されていく。

 

聖者たちは唱える。

「我々は都市と共に沈む。

浄化され我々の苦しみは終わる」

 

マーゴは地下道へ降りる。

ミカルは叫んだ「みんな落ち着いて」

その時ミカルの片目が撃たれた。マーゴたち革命派の銃によって。

水は溢れ都市を飲み込んでいく。

修理班が急ぐが水圧の為に搭に近づけない。

地下ポンプのバルブが閉まらない。

センザイマスターは座ったまま焦りを感じていた。

これほどの力をキラが持っているとは?

誰かの望みをひきつけているのだ。

センザイマスターの耳に聖者たちの歌声が聞こえる。

 

ネズはミカルを抱き上げ皆を呼ぶ。

メイヤードはアシジンを読んで非情出口から小型エレベーターに乗り込もうとした。

その時背後からキラが駆け付けてきた「アシジン」

メイヤードは狙いが駆け込んでくるのを待つ。

「来るな」アシジンは心の中で叫びメイヤードに体当たりしてエレベーターに入り込んだ。自動的にドアが閉まる。

 

「せっかくのチャンスをふいにしたな」

メイヤードは「おまえにやる薬なんかないぞ。のたうちまわって死ぬがいい」

これを聞いたアシジンは怒りでメイヤードを壁にたたきつけた。

「もろとも・・・死ね」

メイヤードは抗い「おまえの病気はうそだ」

アシジンはメイヤードの舌を噛み切ろうとした。

が、頭痛が収まっているのが判り「オレをはめただけか?」と気づいた。

しかしエレベーターはもう止まらず降下し続ける。

 

「魔物がマザを」と叫ぶじいさまがしつこい。

ミカルは手術室に運ばれる。ローニはキラに「ミカルが助かるように祈ってて」と頼み込んだ。

その言葉にキラは反応する。

 

ネズは地下鉄に乗るふりをしてヘリコプターに乗ろうと計画する、という考えをセンザイマスターに読み取らせることにしていたのだが結局地下鉄が動かずヘリコプターに乗る事になった。

そこにはセンザイマスターが待ち構えている。

彼の目的はキラだけだった。

 

センザイマスターは語る。

キラの凄まじい超能力は聖者たちの望みをかなえるためのものだった。

聖者たちがキラの能力を引き出しているのだ。

彼らは20年前大火災で滅亡したサハラ都市のわずかな生き残りだ。

彼らは20年かかってこのモノドール都市にたどりついたのだ。死に場所を探して。

マスターはさらに「グリンジャが絶望とともに聖者をつれてきた」と云う。

グリンジャは倒れた。

すがりつくキラにマスターは続ける「寄るな。その男の見る世界の死ぬ夢をおまえもまた見ているのだ。都市を破壊し皆を殺したいか?」

キラの脳裏にローニの「ミカルの為に祈って」という姿がよぎる。

キラはアシジンを求めたがマスターはアシジンがいてもここまで増幅した力を弱められない、と断言した。

 

ネズは仕方ないと判断しキラから離れヘリコプターに乗り込もうとして「ゴー」と呼ぶ。

しかしゴー博士はアーリンとイワンが作った子供を殺すのか?都市を救うために?と考えキラを抱きしめた。

「こわがるな。何か聞こえないか。イワンの悲鳴ではなく。頼む。違うものが。死や絶望ではなく。キラ、聞くんだ。おまえの助かる道はそれしかないぞ。イワン!彼に何か与えてくれ」

 

その時、洪水がヘリポートに流れ込む。

キラはゴー博士を弾き飛ばした。

ゴーはネズと老人にヘリに引きずりこまれる。

「キラ」

ゴー博士はへたり込む「・・・イワン・・・」

 

メイヤードとアシジンが乗ったエレベーターが止まり降りた時、目の前には地下ダムがあった。

 

第22話「境界の果て」

最地下に着いたアシジンとメイヤードも洪水に飲み込まれてしまう。

それを水中で救ったのがキラだった。驚くアシジンにキラは「この水を止めたいんだけど強すぎて」という念を伝えた。

そこへセンザイマスターが泳ぎ追いかけてきてキラは再び水流の中へ消えていく。

 

アシジンはなんとか這い上がりメイヤードを見つける。

暖かな装置の上にたどり着きメイヤードの服をに脱がせた。

 

センターでは死者が六千名と数える。

しかし地下ダムがチグリスユーフラテスの地下支流とつながっているのを考えれば洪水がいつ終わるかは予測不能だった。

 

地下ではアシジンとメイヤードがふたりきりでいた。

アシジンはメイヤードの裸体を見た。

その身体は機械仕掛けのように見えさらに右半分が女の胸のようにふくらんでいたのだ。

「おまえはマザなのか?」と問うアシジンにメイヤードは嘲笑した。

「マージナルの人間どもが願ってやまぬマザ!女?月にも火星にも女なんかいくらでもいる。女がいない世界はここだけだ。なにもかも作り事だ」

メイヤードは後22年でマージナルプロジェクトが終わると告げた。

それにアシジンは子供ならキラが生むと言っている、と答えるとメイヤードは「なるほどキラは子供を産むかもしれん。だが私の持つ進行性の病気をキラも受け継いでいる。キラにでなくても子供に出るかもしれん」

しかしそれでもアシジンは答える。「キラは俺の子供を産み強く育つ。都市ではマザが復活し村々には果実が実り洪水の話は伝説になるだろう。大地はうるおい・・・」

メイヤードは怒りをぶちまける。

「おまえたちはプロジェクトなしには生きていけないのだ。我々のプランがおまえたちの命を決める。そしてそのプロジェクトは終わる。私はこの不毛の地球の最後の番人だ」

 

キラはセンザイマスターに追われながらチグリスユーフラテスの支流へさらには海へと近づき流されていた。

センザイマスターは雑菌だらけの海の前で決着をつけたかった。

捕まえた、と思ったキラはするりと抜け出し青い海に入り込む。

これは幻覚だ。生みは雑菌で赤くなっているはず。

そう。

これは地球が見せている夢だった。

 

メイヤードは死に向かっていた。

アシジンは彼を抱きしめる。

「ナ・・・ス・・タ・・・ス・・・」

 

そうか。

地球そのものがキラに助けてと言っていたということに私は気づいていなかった。

イワンの言う夢の子供とは地球が生んだ子供だったのだ。