ガエル記

散策

『Marginal/マージナル』萩尾望都 その11 完結

最終回です(たぶん)

 

ネタバレします。

 

エピローグ「ホウリ・ナイト」

 

モノドール都市からみるみる水が引いていく。

(ドクンドクンという鼓動とともに)

そして誰もいないはずの海岸線に一人の姿があった。

それはヒョロヒョロに痩せ切ったセンザイマスターだったのだ。

 

地下にいたメイヤードとアシジンは救助されたがメイヤードは死亡した。

 

アシジンとグリンジャ、ゴー博士はセンザイマスターを訪ねキラの行方を問う。

「死んだよ」

もうおしまいだと青くなるゴーにマスターは「なんの。これから始まるんじゃ」と答える。

「キラが洪水を止めたのか」と訊くグリンジャ。

「聞こえないか?」とセンザイマスター「まだ体に残っている、あの鼓動」

 

ナースタースはアシジンからメイヤードの最期の言葉がなんだったかと尋ねる。

「ナ・・・ス・・・タ・・・ス」

それを聞いたナースタースは泣く。

「わたしに指一本ふれなかった。足にすがりついて愛していると言ったけど彼はすべての権利を私にくれた。愛のほかは全部・・・」

 

 

エドモスはカレンとむつまじくなり、アシジンは村に帰るためグリンジャと別れた。

村ではジューシーがすっかり髭男となっていた。(カワイイ)

 

アシジンは村長に会う。

「新しい世界がはじまるためには多くの命が悲しくも明日への供物として供えられる」

(なんという言葉だろう。革命とはそういうものだ)

 

アシジンは岩屋に戻り以前と変わりない生活に戻ったが悲しい涙が流れるのだ。

 

アシジンは氷室に向かう途中でマシーナ(ヘリコプター)を見る。

アシジンもグリンジャもかつて見た氷室の「キラ」を見に来たのだ。

しかしキラがいたはずの場所にその姿はなかった。

「さっきのマシーナだ」叫んだアシジンに氷の塊が落下し気絶した。

 

ゴー博士はセンターに勤務していた。

オクターブ家のナースタースが急にメイヤードの子供の未来と地球の再生に興味を持ち出しカンパニーが協力することとなったのだ。

月からバルミッサ、テルミッサ双子の博士が到着した。

イワンの実験作でたったひとつ生存したキラのを蘇生するのだ。

発見したのはセンザイマスター。もうひとりのキラと海に向かって流れていた時、キラの意識が氷室にいるキラを見せたのだ。

センザイマスターは半覚醒のキラと対話する。

キラは夢をみていた。イワンのいた世界と死んだキラが体験したマージナルの世界の夢だ。

バルミッサ&テルミッサは蘇生したキラから卵巣の一方を摘出し砂漠に帰すという。卵子は培養して赤ん坊にする。

そして砂漠に戻したキラがアシジン、グリンジャとすごすことで心の変化がどうなっていくのかを観察するのだ。

ゴーも双子博士も心配はそこだった。

しかしセンザイマスターは「心配はない」という。

「必要のない能力はそうたびたび表に出ることはない。キラには役割があった」

受胎していたキラは永く病んでいた地球に溶け込みカンフル剤となったのだ。

地球を蘇らせる脈動だ。

キラの遺伝子には不妊のD因子を不活性化させる要素がある。それを地球規模でやったのだ。

 

こうしてキラは砂漠にアシジンとグリンジャのもとに戻った。

以前あった火傷は消え毒蜘蛛に咬まれた傷跡もない。

キラを見てグリンジャは「何か食わせて寝せるか」という。

そしてアシジンは「あした起きたら名前をつけよう、新しい・・・」と言った。

 

完。

 

 

これでやっとかなりきちんと読み込んだつもりです。

この感動。

なぜもっと早くきちっと読み込まなかったかと反省するばかりです。

しかしよくわかってなかった。

今だからこそこの物語が理解できたし共感できたのではと思っています。

 

なんといってもゴー博士が好きすぎる。

前に「アメリカ映画だったらゴー博士を主人公にするに違いない」と書きましたがその目線の物語が好きです。

そしてそれを言うなら本作はどの人を主人公にしても行けそうに思えます。

少年マンガならやはり主人公はグリンジャでしょう。

さすがにそのままでは老けすぎなので少年として設定されるだろうが赤ん坊が与えられず村人が最後の五人となりそのうち一人はかなりの老人(30代なんだけど)となってしまい「こんな仕打ちをする都市などほろびてしまえ」とテロ行動を起こすが美少年(まあ一般的には美少女だろうけど)と出会い己の生き方を変えていく、という筋書き。

 

と思ったけどこれは闇バージョンか。

普通はアシジンのような「仲間外れにされてはいるけど屈託なく生きていた主人公が美少年(普通は美少女)と出会ったばかりにあれよあれよと騒動に巻き込まれテロ活動(どっちにしろ)に加わっていく、というほうが王道か。

 

そして本作でもしかしたら一番求められたのはマルグレーヴ・メイヤード主人公でナースタースとの秘められた両想い、かもしれない。

私としてはメイヤードが一番謎すぎて理解できない。

美しいナースタースを愛するには俺は醜すぎる。という奇妙な自尊心なのか。

そもそもメイヤードが機械人間だろうが半分乳房があろうがナースタースと愛し合えていれば何の問題もなかったのでは?とすら思えてくるのだが。

そしたらたぶん半分死んでる地球のマルグレーヴなどにならなかったかもしれないが。

しかし人の心は誰にもつかめない。

 

つまり前にも書いたがアーリンがキラを怖がったりせずノリノリでキラを育てていたら?という道もあるんだよな。

しかし萩尾望都はそのどれも選ばず「両親に愛されなかった子供」キラを主人公に選んだのである。

キラは父にも母にも絶望されひとり砂漠を彷徨いグリンジャと出会いさらにアシジンの色子となることで次第に人間性をが育んでいく。

キラが反応したのがグリンジャだったのはやはり最初に出会った人物だったからだろう。

 

そしてキラは地球と結合することで地球を再生化した。

再読最初で「結局萩尾望都の呪いである両親から愛されなかった子供を描いただけ」ではないかというような軽薄な心配など吹き飛んでしまった。

キラはそういうう子どもだったかもしれないがグリンジャとアシジンそしてミカルや他の人たちとの出会いで成長し彼らを救うために地球そのものになっていったのだ。

なんとなく『惑星ソラリス』とも重なる。というより『惑星ソラリス』を元にしているのではないだろうか。

とはいえ本作はそんな一つのイメージだけではない。

再読中にもあるとあらゆる萩尾史を感じたし様々なリスペクト・オマージュを感じさせられた。

萩尾SFが古代メソポタミアのイメージからきているのも妙味深い。

私としてはどうしても横山光輝の『バビル2世』そして横山氏も砂漠にまつわるSF作品が多いことと重ねてしまう。

『DUNE砂の惑星』とも重なる。

 

萩尾望都の簡潔にまとめられた作風は天才だがそれでももう少しぐだぐだと描いて欲しかった感もある。

グリンジャが四人の仲間とテロリスト結成をしていく過程、貧しい村で彼がどんな少年時代を送ったか。

エドモスとエメラダの恋物語、ミカルの幼年期の話なども知りたい。

おっと、メイヤードとナースタースの話も。

そして個人的にはゴー博士の話も(あまり面白くなさそうだがw)

そしてこれからどうなっていくのか、は、最も知りたいところではあるがここからは「愛された子供」の話になっていくので萩尾望都は描かないのだろう。