ますます迷走していくイアンの物語です。
ネタバレします。
セックスは仕事でしかないというジェルミ。
ジェルミに金を払って彼の身体を抱くイアン。
そのイアンは「愛しているのはナディア」だという。
ナディアという女性もグレッグの最初の妻リリヤを思わせる。美しいが頼りなく愛だけを求めている女性だ。
つまりナディアはイアンの母親に似ているという構図になっている。
もう逃げない、ジェルミに向き合おう、ジェルミと正しい関係性を持とうと決意したイアンだったがリンドンが心配した通り事態はそんなに思ったようには進まない。
イアンはますますジェルミとの関係がおかしくなりそれゆえにナディアとの関係も不自然なものになっていく。
女性に愛していると言いながら同居中の少年とセックスしているのはおかしい関係だろう。
そのジェルミはイアンとのことより頭の中はバレンタインでいっぱいだ。
スエーデン(なぜスウェーデンじゃないんだろう)に行った彼女と会いたいためにジェルミは双子の兄であるエリックと話そうとカウンセリングに行くが彼はすでに退会していた。
住所を教えるわけにはいかないが彼にそう伝えておくと言われる。
相変わらずマージョリーに振り回されているが家に戻るとイアンとのギクシャクした生活が続き夜はまたグレッグの亡霊にうなされ泣き叫ぶ。
イアンはリンドンからグレッグが撮った鞭打ちの写真を受け取る。
その写真を証拠としてジェルミがグレッグから性暴力を受け続けていたと証明することでいつかジェルミが殺害疑惑を持たれることへの防御になるとイアンは考えたのだ。
しかしジェルミにとってこの写真が「誰かに見られることへの嫌悪」は凄まじいものだった。
イアンはナディアにジェルミとの関係を打ち明け別れを告げる。
けりをつけジェルミに集中したいイアンだがこれもまたうまくいかない。
ナディアはジェルミに会って別れてほしいと言い出す。
ジェルミはイアンが愛しているのはあなただと言う。
イアンとジェルミの対話はいつもケンカになってしまう。
それはジェルミがどうしても自分の思い通りにならないからというイアンの傲慢さからくるものだ。
ケンカになってはほぼレイプのような感じでジェルミとセックスすることになる。
そして反省し今度こそはとイアンは思うが結局は言い争いとなり暴力をふるってしまうイアンという繰り返しだ。
ついにジェルミはイアンとの生活にうんざりしボストンへ帰ると言い出す。
イアンは「その前に自転車旅行へ行こう」と誘う。
ナディアを連れて行くという条件で自転車旅行の誘いを受けるジェルミ。
マージョリーも加わってイギリス古城の旅が始まる。
ナディアはイアンとの交際を取り戻したいと願っているがイアンはもうジェルミのことしか考えていない。
これまで好きになった女性は皆イアンに夢中になったのだ。
イアンから好きと言われ嫌った女性は一人もいなかったのだという。
マージョリーの具合が悪くなりナディアは妹と共に帰る。
そしてジェルミにせめて最後まで旅行してあげてと伝える。
セブンシスターズの崖の上の草原を駆けるジェルミ。
慌ててジェルミを追いかけ抱きとめるイアン。
その夜ジェルミは泣きながらイアンに謝った。そして言う。
「ぼく、イアンが好きだよ」
しかし
「愛なんて割にあわないよね。一生誰も愛さないと決めたんだ」
そして
「愛はいらない」
ジェルミはイアンから殺されたいと望む。
イアンはその首に手をかけた。
ジェルミは味覚もおかしい。
塩の辛さが判らないでいる、という描写がジェルミの感覚が麻痺していると示す。
特に多感な少年期にジェルミはグレッグによって異常な体験をした。
それは愛と結びつくものだったために彼には愛と暴力の意味が混乱し判らなくなってしまっているのだ。
それは愛の証であるはずだった。
それが愛ではなく単なる暴力だったのだとされればジェルミの脳内で愛と暴力はどのように構成されてしまうだろう。
リセットはできない。
ばらばらになった感覚は元に戻らない。
愛しているという言葉がそのまま聞こえない。
きれいだとか可愛いとか愛しいとかそういった単純な誉め言葉と言われるものが何の意味かわからなくなる。
その一つ一つに「これはいったいどういう意味なのだろう」と恐怖を感じているのだ。